いしはらしんすけ

悪は存在しないのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.8
「ドライブ・マイ・カー」で一躍知名度を上げた濱口竜介監督最新作。

今や世界的に周知の明確な作家性をもってなる濱口作品だが、今回は製作の方法論から意識的にこれまでと違う方向性を指向。

オープニングとエンディングに顕著な一定程度エンタメ性を排したアート映画的な作風が印象に残る。

一方で濱口演出の特徴である主要人物の演者の意図を削ぎ落とした抑揚ないセリフ回しは、主役にプロの役者ではなく裏方だった大美賀均を起用するという、より先鋭的な形で実現。そこを筆頭に特にグランピング場説明会以降のオフビートでシニックなコメディシーンは、濱口節と言っていい絶妙なテイストを醸しています。

かったるく冗長に進む前半から説明会でマネージャーコンビが出てきてから一気に引き込む手管は完全に確信犯的。

当然日頃から距離感近いであろう芸能事務所描写のリアルさはあの二人の実在感をこれ以上ないほど確かなものに高めている。

原発や基地問題を連想させる中央と地方の格差や権力側の欺瞞、環境問題への実存的問いかけなど、社会性の高いイシューを盛り込みつつ、ドラマとして面白く見せてしまうあたり、世界的名声もかくやの様相。

で、なんとなく連想されたのは私の場合あの「北の国から」だったりするのですね。

主人公、巧の職業不定で極度の自然崇拝な姿勢から喫煙習慣、開拓者家系に至るまで、どうにも黒板五郎感がハンパなくないっすか?なにしろあんなニット帽子被った主人公、ちょっと他に思い当たらない...って若干こじつけめいてますが。笑

まあ田舎の人達は割と理想化というか都会チームと対比される兼ね合いからかあえて単純化されてるきらいはあるものの、タイトル通りの二項対立否定は本質の部分で「北の国から」に通底するとはかのシリーズファンとしての牽強付会か?

その他、不条理で解釈し放題なラストは、ヘンテコなアイスランド映画「LAMB/ラム」を思い出したりしました。

そのラスト、そしてタイトルに関しては観客によって受け取り方がまったく違うだろうが、私としては「人間は全部悪っちゃ悪。つーか自然からしたら善とか悪とか所詮人間の尺度でしかないから意味ねー」ぐらいに理解しました。

最後にどうでもいいこと書いとくと「猿の惑星/キングダム」でもあるキャラクターがリアネイキッドチョーク(チョークスリーパー)で締め落とすシーンあるんだけど、この技、世界的に流行ってんのかな?