ヘソの曲り角

悪は存在しないのヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
2.5
いきなりフランス映画オマージュまるだしのタイトルデザイン。その後延々続くアオリの森林移動ショット。その後ワンショットで薪割り。あちゃー、これ寝るぞ…と頭を抱えた(結果的に寝はしなかったけど)。水汲みでようやく会話が始まったかと思えば、いつものRPGのスクリプトみたいな会話。話し言葉ではない、語彙、文法ともに不自然でもやもやするやり取り。そして「あっ」と思い出して娘の迎えに行くが「先に帰りましたよ」で帰路の森林へ。この時点で「また忘れて今度は娘死んだりトラブったりするなぁ」と見当がつく。音楽はやたらブツ切り。生理的に鳥肌を立たせてくるこれまた濱口得意の手法。石橋英子の音楽ありきの映画だと思ってたはいたものの想定以上に存在感があってMVっぽさも感じた。

中盤の説明会のシーンやうどん屋のくだりは本当に素晴らしいのだが、そこ以外は正直「あれ?濱口さんどうしたの?」という感じ。説明会以降はよくあるミニシアター系邦画のような類型的シチュエーションが続いていく(逆に最近の邦画が濱口竜介っぽいのかもしれないが)。事務所での会議、車でのやり取り。そういえば特徴である不自然な台詞回しも徹底されておらず、フランクな話し言葉の役者と不自然台詞の役者が混在していた。主演にいたっては途中から台詞回しが柔らかくなっている。演技のリアリティラインが一致していない。

あとこれは「ドライブ・マイ・カー」の時も思っていたことだが物語の核心・オチに意外性がないうえ、その過程でもそこまで揺さぶられない。それでも「ドライブ〜」には演劇要素だったりアクション映画みたいなカメラワークだったり楽しめる要素があるのだが、本作は類型的というかオチるまで間が持たないフリというかの連続で次の展開や画への求心力がそこまでないように感じた。「ゲット・アウト」見てる時の感覚に近い。AってことはBなるじゃん、が淡々と並べられていくだけ。

んでまあ序盤の予想通り娘が行方不明になるわけで、もはや「ミツバチのささやき」みたいになるのだが今年日本で公開された「ミツバチと私」での娘捜索シーンの方が優れているように思う。それでいてラストの意味不明さ。最後に支離滅裂な暴力をねじ込んで一体何を担保したつもりなのだろうか。悪は存在しない、大仰な題名である。

少しだけ柳町光男「火まつり」を感じた。