「なんて贅沢な映画なんだ…」と思いながら観ていた。
ゆっくりと眺めるように映される木々、水、空気。
たっぷりと時間をかけて交わされる何気ない会話。
それでも全く間延びせず集中して見れてしまうのは、何か恐ろしいことが起きそうな不穏さがカメラワークや音楽から感じ取れるからだろうか。あとは会話劇として純粋に面白いのもある。
想像を超えてくる困惑のラスト。
それまで雨も風もない穏やかな天気がずっと続いていたのが、その唐突さをより強調させている気がする。あの霧はすごかったな。
思えば巧という男は自然界そのものの化身なのかもしれない。
そこに善悪の概念は存在せず、ただの事象として存在するだけ。先に住んでいた人間と後から来る人間がどう折り合いをつけようとも、もともと存在する自然とのバランスを欠けばあっけなく崩壊する怖さ。そんなのを表象しているのかもと思った。
巧を演じる大美賀均の立ち居振る舞いや話し方も、上手い下手とは別の次元にある印象を受ける。森の守り神みたいな。うどん屋での切り返しショットの存在感は、照明効果もあってなかなか怖かった。演技未経験の元スタッフらしいけど、絶妙なキャスティングだなあ。
そんな風に考えると、娘の花の存在は次世代に残すべき自然のように思えてくる。
上流の水が下流に影響するように、後世に何を残せるのかは現代を生きる自分たちにかかっている、という視点もあるのかもしれない。
