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悪は存在しないの旅するランナーのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.7
【悪評は存在しない?】

美しい水源を持つ長野県の架空の町に、グランピング施設を作る計画が持ち上がる。
汚水処理、火の不始末、自然への影響などを懸念して、町民たちは動揺する。

大美賀均(おおみか ひとし)演じる巧(たくみ)という男が謎めいていて魅力的です。
自然界のバランスを大切にする町の何でも屋。
長野県富士見町・原村でロケされた森の番人のような男。
ドライブ・マイ・カントリー・ライフ。

この男が、ラストに見せる意表を突く行動。
バランスを保持するための、バランスを欠いた動きなのか?
育児ストレスからくる衝動なのか?
はたまた、必殺仕置人なのか?
今作への評価が分かれるところです。

このシーンについて、濱口監督は次のように語っています。
「彼自身が生きてきた人生と、あの瞬間の偶然みたいなものが、彼にああいう行動を取らせているんじゃないかと考えています。
あの瞬間に、タイトルと物語の緊張関係がもっとも高まります。
劇中の高橋のラストのセリフは観客の疑問でもあると思いますが、その答えは与えられることはなく、高橋も観客もなぜこうなったのか自問するしかない、という構造です」

計算された難解さ。
問いかけで終わる潔さ。
これでは、悪評は存在しようがありません。