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フェラーリのDickのネタバレレビュー・内容・結末

フェラーリ(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

●解説:
①マイケル・マン監督がアダム・ドライバーを主演に迎え、イタリアの自動車メーカー・フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリを描いたドラマ。ブロック・イェーツの著書「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」を原作に、私生活と会社経営で窮地に陥った59歳のエンツォが起死回生をかけて挑んだレースの真相を描く。1957年。エンツォ・フェラーリは難病を抱えた息子ディーノを前年に亡くし、会社の共同経営者でもある妻ラウラとの関係は冷え切っていた。そんな中、エンツォは愛人リナとその息子ピエロとの二重生活を妻に知られてしまう。さらに会社は業績不振によって破産寸前に陥り、競合他社からの買収の危機に瀕していた。再起を誓ったエンツォは、イタリア全土1000マイルを縦断する過酷なロードレース「ミッレミリア」に挑む。妻ラウラをペネロペ・クルス、愛人リナをシャイリーン・ウッドリーがそれぞれ演じた。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品(出典:映画.com)。
②本作は予算100億円超の超大作。米・英・伊・サウジアラビアの4か国が出資していて、プロデューサーと名の付く人だけでも58名に上る(出典:IMDb)。
★79歳で、こんな超大作を仕上げたマイケル・マンの力量に敬服する。

【マイレビュー:◆◆◆ネタバレ注意】

1.はじめに:マイケル・マンとの相性

❶1943年シカゴ生れのマイケル・マンは、米国の大学卒業後、ロンドン・フィルム・スクール(大学院)に留学し修士号を取得。1965年より英国テレビ界でドキュメンタリーやCMを作り始めた。1972年に帰米後は主にテレビドラマの脚本で活躍した。1981年には劇場映画に進出し成功を収め、テレビ界からハリウッドの本流に躍り出た外部流入監督の一人となる。その作風は男たちの濃密なドラマをスタイリッシュな映像で撮らせたら右に出る者はいないと評される(出典:KINENOTE)。
❷マイケル・マンの長編監督作品中、日本で劇場公開されたものは本作を含め12本あり、内10作をリアルタイムで観ている。マイ評価は下記の通り。全体の相性は上。
①1981年『ザ・クラッカー 真夜中のアウトロー』 監督/脚本。1981年公開。未見。★NET動画(英語版)あり。
②1984年 『ザ・キープ』 監督/脚本。1984年公開:85点。
③1986年『刑事グラハム 凍りついた欲望』 監督/脚本。1988年公開。未見。★NET動画(英語版)あり。
④1992年 『ラスト・オブ・モヒカン』 監督/脚本/製作。1993年公開:80点。
⑤1995年 『ヒート(1995)』 監督/脚本/製作。1995年公開:80点。
⑥1999年 『インサイダー』 監督/脚本/製作。2000年公開:100点。★マイベスト
⑦2001年 『アリ』 監督/脚本/製作。2002年公開:80点。
⑧2004年 『コラテラル』 監督/製作。2004年公開:70点。
⑨2006年 『マイアミ・バイス』 監督/脚本/製作。2006年公開:70点。
⑩2009年 『パブリック・エネミーズ』 監督/製作/脚本。2009年公開:80点。
⑪2015年 『ブラックハット』 監督/製作/脚本/原案。2015年公開:40点。★マイワースト。
⑫2023年 『フェラーリ』 監督/製作。2024年公開:85点。本作。

2.カーレース映画の傑作群

①カーレースの迫力と魅力を描いた作品は幾つもあり、傑作も少なくない。
②特に下記の作品は評価が高い。
★迫力あるカーレースだが、一方では危険で死と隣り合わせ。殆どの作品に死者や重傷者が出る事故シーンが登場する。
ⓐ『グラン・プリ(1966)』
★カーアクション映画の最高傑作。ジョン・フランケンハイマー監督自らが率いる300名近い撮影隊による撮影技術を駆使した映像がシネラマの大画面に展開する迫力に加え、画面を分割して複数の事象を同時進行で見せる技法等、今でも魅力は褪せない。
ⓑ『栄光のル・マン(1971)』
ⓒ『デイズ・オブ・サンダー(1990)』
ⓓ『ラッシュ プライドと友情(2013)』
ⓔ『フォードvsフェラーリ(2019米)』
★マイケル・マンが製作総指揮の一人として参画。
ⓕ『グランツーリスモ(2023米)』

3.マイレビュー◆◆◆ネタバレ注意

❶相性:上。
★ストーリーに納得。満足。

➋時代:1957年の約1年間。

❸舞台:イタリア・モデナ(Modena:北部、ボローニャの北西40kmに位置する都市、人口18万人)。豊かな農業地域に囲まれ,農産物加工業の他,1920年代からフェラーリ,マセラッティなどの自動車産業が立地している(Wikipedia)。

❹主な登場人物
★大部分の人が実在で実名で登場する。
★イタリアを舞台にしたイタリア人の映画なのに、殆どの人が流暢な英語を話している(笑)。映画の世界では珍しくない。
①エンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー、39歳):実在(1898-1988)。1957年当時59歳。元レーサーで、カーデザイナー、そして創業したフェラーリ社をイタリア屈指の自動車メーカーへと成長させた稀代の経営者。レーサーやエンジニアたちからは親しみと敬意を込めて「コメンダトーレ(社長・騎士団長)」と呼ばれる。妻ラウラとの間に一人息子のアルフレード(愛称ディーノ)がいたが1956年に24歳で病死する。私生活では、ラウラに隠して愛人リナと非嫡出子のピエロがいる。
②ラウラ・フェラーリ(ペネロペ・クルス、48歳):実在(1900-1978)。1957年当時57歳。1923年にエンツォと結婚。
フェラーリ社の共同経営者として、財務面を仕切っている。
③リナ・ラルディ(シェイリーン・ウッドリー、31歳):実在(1911-2006)。1957年当時46歳。エンツォの愛人。
④ピエロ・ラルディ(Giuseppe Festinese):実在(1945-)。1957年当時12歳。エンツォとリナの息子。非嫡出子だが、正妻ラウラの死後、認知され、ピエロ・ラルディ・フェラーリとなる。後にフェラーリ社に入社し重役にまで上り詰める。2024年現在、副会長で、グループ株13%強を所有し、資産はUS$8.6 billion(約1兆3千億円)の大富豪(Wikipedia英語版)。

❺あらすじと考察
①有力なレーサーとして人気を博していたエンツォ・フェラーリは、妻のラウラと共同で1947年に、フェラーリ社を創業した。本作はそれから10年経った1957年から幕が開く。
②エンツォは、人生の岐路に立たされていた。1年前に24歳で病死した一人息子ディーノの悲しみは深く、妻ラウラとの関係は冷え切っていた。さらに、会社はレースへの投資が重荷となり経営危機に陥り、ライバル企業からの買収の噂が広まっていた。
③エンツォにはラウラに隠している秘密があった。郊外に愛人リナと12歳の息子ピエロを囲う二重生活を送っていたのだ。
④エンツォは最後の望みを託して、イタリア全土の公道1,000マイル(1,600km:青森⇔広島に相当)を横断する過酷なロードレース 「ミッレミリア」(Mille Miglia=1,000マイル)に挑戦することを決意する。
⑤練習中にベテランレーサーが事故死し、後釜にアルフォンソ・デ・ポルターゴが加わる。
⑥ラウラは銀行の書類からエンツォに愛人がいることを知りショックを受ける。エンツォは謝罪しラウラに持ち株を譲渡するよう要求する。ラウラは金額を提示する。エンツォは、会社が安定するまで現金化しないことを前提に小切手を切る。
⑦ミッレミリアが始まり、フェラーリ社のチームは快調に進撃するが、ポルターゴの車が、路上の障害物によりクラッシュし、ドライバー本人と観客の子ども等11人の死者を出してしまう。
⑧エンツォは、事故の責任を問われ起訴される。
⑨更にラウラが小切手を現金化してしまう。その理由はエンツォがマスコミの攻撃をなだめるための資金とする為だった。
★さすがはラウル、誰もが思いもよらなかった凄い手だ。ペネロペ・クルス一番の見せ場である。
⑩最後にエンドロールで各人のその後が示される。
ⓐピエロは19歳の時エンジニアとしてフェラーリ社に入り、今は副会長を務めている。
ⓑエンツォはミッレミリア事故に関して無罪になった。
ⓒラウルは1978年に死去。
ⓓその後エンツォとリナはモデナで一緒に暮らした。
★映画一巻の終わりでございます。お楽しみ様でした(笑)。

❻まとめ
①上記2.の通り、カーレースの迫力と魅力を描いた作品は幾つもあるが、本作もこれ等に勝るとも劣らぬ出来栄えである。
③本作の特徴は、エンツォと妻のラウラと愛人のリナの三角関係を赤裸々に描いていることにある。
④「英雄、色を好む」という言葉があるが、エンツォもこの例にもれず、長年に渡り、愛人リナと息子ピエロとの愛の巣を設け、そのことをラウラに隠していた。エンツォは経営者、技術者としては一流だったが、人間としては品行方正ではなかったのだ。
⑤本作では、新車開発に湯水のように資金をつぎ込んだり、死亡したレーサーの為に高額の見舞金を払ったり等々、エンツォが金銭感覚に疎かったことが描かれている。それを財政面から支えていたのがラウラだった。フェラーリ社の成功はエンツォとラウラの二人三脚によるものだったのだ。
⑥夫婦・男女がお互いの長所をもって協力して支え合う社会。マイケル・マンが本作で描きたかったのはこのことではないか。そう思った。
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