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オークション 〜盗まれたエゴン・シーレのDickのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

1.はじめに:パスカル・ボニゼール監督との相性

❶1946年パリ生まれのパスカル・ボニゼールは、1969年大学院修了後、カイエ誌の編集者になり、やがて批評家になった。1976年脚本デビュー後、多くの作品を手掛け、監督たちの信頼を得た。中でもジャック・リヴェットとアンドレ・テシネの新作には欠かせない存在となった。脚本は監督との共同作品が多い。脚本は約60本。日本公開作品では、『美しき諍い女1991』、『ジャンヌ 薔薇の十字架1994』、『ジャンヌ 愛と自由の天使』、『夜明けの祈り2016』、『マルクス・エンゲルス2017』等、秀作が多い。演出家としてのスタートは遅く、1996年、『アンコール』(日本未公開)で長編劇映画デビューしたときには既に50歳であった(出典:Wikipedia)。

❷本作を含め10本の長編監督作品があるが、日本で公開されたものは2本のみである。マイ評点は下記の通り。監督としての全体の相性は中。
①『華麗なるアリバイ2008』 2010/7公開。★マイ評点40点。完全なる期待外れ。
②『オークション 盗まれたエゴン・シーレ2023』 2025/1公開。本作。★マイ評点60点。

❸日本未公開の監督作品のIMDb評点は軒並み5.2~6.3と低く、高評点の脚本作品に比べ格差が大きい。

2.マイレビュー◆◆◆ネタバレ注意

❶相性:中。

❷時代:2000年の初頭。

❸舞台:パリ&ミュルーズ(フランス東部の工業都市。スイスのバーゼルへは車で30分。)

❹主な登場人物
①アンドレ:アレックス・ルッツ:競売人(オークショニア)。鑑定士。オークション・ハウス「スコッティーズ」に雇われ、パリで働いている。
②ベルティナ:レア・ドリュッケール:アンドレの元妻で仕事のパートナー。鑑定士。10年前に離婚しているが、彼とは互いに美術の目利きとして、気心の知れた同士のような関係。
③オロール:ルイーズ・シュヴィヨット:競売会社で研修中の若い女性。アンドレの部下として働いている。
④オーロルの父:アラン・シャンフォール:元古書籍商。
⑤シュザンヌ・エゲルマン:ノラ・アムザウィ:若い女性弁護士。マルタンから依頼を受けて、アンドレに絵の鑑定を依頼する。
⑥マルタン:アルカディ・ラデフ:30歳の純朴な工員。化学工場で夜勤労働者として働いている。父亡き後、母親と2人で暮らす。絵を見つける。
⑦シーヌ:ロランス・コート:マルタンの母。
⑧エルべ・カン:オリヴィエ・ラブルダン:「スコッティーズ」のオーナー。
⑨アンリ:アレクサンダー・ステイガー:「スコッティーズ」の社長。
⑩ボブ・ワルベルグ:ダグ・ランド:エゴン・シーレの「ひまわり」の元持ち主の子孫。
⑪ロシュブール:アドリアン・ド・ヴァン:ワンベルク家の弁護士。
⑫サムソン・コーナー:ピーター・ボンク:オーストラリア人の美術商。

❺ストーリーの概要:映画の中身を解体して、時系列順に再構成した。
パリのオークション・ハウスに勤める競売人で鑑定士のアンドレは、ミュルーズの労働者マルタンの弁護士を通じて、エゴン・シーレの作品だとするカンバス絵の鑑定依頼を受ける。アンドレは、贋作に違いないと思いながらも、元妻で相棒の鑑定士ベルティナと共に鑑定結果、1939年以降行方不明となっていたエゴン・シーレの代表傑作「ひまわり」であることが判明した。その絵は、マルタンと母が引き継いだ家に掛かっていたもので、マルタンの友人が見た雑誌に掲載されていたことから気付いたものだった。アンドレの調査結果、持ち主はユダヤ人ワルベルクで、アメリカへの逃亡資金とするためこの絵を売るつもりだったが、無事脱出出来たのはワルベルクだけで、家族は収容所へ送られ、絵はナチスに没収された。ヒトラーは世界の芸術作品を略奪していたが、この絵はヒトラーの好みに合わなかったので協力者に与えられたもので、その協力者が老衰で亡くなった後の家を引き継いだのがマルタン親子だったのだ。更に、アメリカに渡ったワルベルクには子孫がいることも判明。発見者のマルタンが絵の所有権を求めないことを子孫に伝えた結果、マルタンは遺産相続人の一人に加えられることになる。アンドレはワルベルクの子孫を説得して、この絵をパリでオークションにかけ、2,500万€で落札した。功績をあげたアンドレはオークション・ハウスのオーナーから、今の社長を解雇しアンドレを昇進させると告げられるが、アンドレは、ベルティナと共に独立することを決意する。

❻考察とまとめ:
①冒頭に「ソフィーに捧げる」とある。ソフィーとは、パスカル・ボニゼール監督の妻で監督・脚本家・俳優であるソフィー・フィリエール(1964-2023)のこと。ソフィーは昨年公開された『不思議の国のシドニ』では脚本、『落下の解剖学』では俳優として出演しているが、2023年に58歳で死去した。
②同時に示されるのが「本作は実話に着想を得て作られている。描かれる人間模様は創作である。」
つまり、本作は実話に題材を得ているが、登場人物は創作であること。
③昨年公開された『海の沈黙』では、世界的な画家の作品の一つが贋作と判明して波紋が広がる問題を扱っていたが、『本作』では、価値がないと思われていた作品が実は本物で莫大な価値があることが判明する騒動を描いていて、対比すると面白い。
④本作の一番の見所はオークションのシーン。会場ではアンドレが仕切る会場には、大勢の買い手が詰めかけているが、殆どが代理人で、その都度電話で指示を仰いでいる。その様子がスリリングである。
⑤下記❼に示したように、オークションが登場する映画は幾つもあり、秀作が少なくないが、本作もオークションシーンだけに限定すれば上出来である。
⑥本作ではパスカル・ボニゼールが監督・脚本・翻案・台詞の4役を担当している。オークションでの駆け引き等は上記の通り見応えがあるが、全体としては、焦点が散漫で乗れない。せっかくの題材が生かされていないと思う。
⑦特に、主人公アンドレの部下の研修生オロールと彼女の父との関係に時間が割かれているのに分かりづらい。
⑧一人ではなく共同で吟味すれば、質が向上したのではないかと思う。

❼トリビア:オークションが登場する映画:
本編中にオークションが登場する映画は幾つもあり、秀作が少なくない。思いつくものをあげておく。
①『北北西に進路を取れ(1959米)』(1959公開、リバイバル数回、マイ評点95点)、
②『おしゃれ泥棒(1966米)』(1966公開、マイ評点75点)、
③『プレステージ(1976仏)』(1979公開、マイ評点60点)、
③『アメリカの友人(1977西独・仏)』(1977公開、マイ評点70点)、
④『無能の人(1991)日』(1991公開、マイ評点70点)、
⑤『恋はデジャ・ブ(1993米)』(1993公開、マイ評点80点)、
⑥『鑑定士と顔のない依頼人(2013伊)』(2013公開、マイ評点90点)、
⑦『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像(2018フィンランド)』(2020公開、マイ評点85点)、
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