どど丼

人間の境界のどど丼のレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.8
親ロシア国家のベラルーシと、EUの要衝であるポーランドの国境間で生じる難民移送問題を取り上げた劇映画。ウクライナ侵攻以前から長らく問題になっている出来事が題材だが、現実問題として難民当事者や関係者がどのような経過を辿り不条理に直面しているのか、全く無理解であった事をダイレクトに知らされた。

大局的にみれば難民問題の原因は国家間対立であって、難民当事者も国家警備隊も活動家たちも皆巻き添えを喰らった被害者。然してそれぞれの思想の元で動かざるを得なくなった結果、個人や小集団での対立や分断に繋がってしまう……という皮肉的な状況が、色を失わせたモノクロの枠内で、まるでドキュメンタリーのようにリアルに映し出される。

邦題にもあるように、そうした状況を可能な限り多視点的に描こうとする意思が伝わる構成で、非常に分かりやすく様々な立ち位置の視点を取り入れていて、それだけでも本当に素晴らしい(当然、ポーランド側に依っているとはいえ)。国家という大きな権力を信じられなければ、目に見えない神に縋ってもそれは祈りでしかなく、最終的には誰を信頼できるか、自分がどうした信念の元で行動するかを決めなければならないという、あまりに厳しい世界の仕組みが嫌というほど表れた作品だった。

撮影自体が短期間で極秘裏に行われ、ポーランド本国での公開時には政府とも揉めたというのも納得なほど、社会に対するメッセージと警鐘が込められている。国際的な映画監督であるアグニエシュカ・ホランドだから実現できた作品だとも思うし、リスクを追ってでもこの現状を伝えたいという覚悟が伝わった。一人でも多くの方、特に日本内外問わず難民問題に対して疑念を持っている方なんかには、ぜひ観て欲しい。
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