いぬ

人間の境界のいぬのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.1
前半は辛過ぎて息できない、後半少しだけホッとする

目をそらすべきではない重大な現実を題材にしていること、この映画がその知らない現実を知る絶好の機会であること、だと頭では分かっているのだが、描かれている現実があまりにも絶望的過ぎて、文字通り息ができなくなった。作中で「辛すぎて見られない」「知らないほうがいい」というセリフがあるが、まさにそんな気持ちになる。作品の仕上がりが素晴らしいからこそ、絶望や過酷さが生々しく心臓に突き刺さって痛い。しかし描き方としては、あえてグロテスクな映像にしたり、不快感を煽ったりしているわけでは全くない。むしろ、悲惨な現実を品性を持って描いているとも思う。にも関わらず見る者をこんなにも苦しくさせるとはすごい作品であり、それだけ題材となっている現実が悲惨だということだろう。
終盤では少しだけホッとするというか、希望を完全には捨てなくていいと思えるシーンがでてくる。おかしな表現かもしれないが、そこまでの辛いシーンを頑張って耐えて見たことへのご褒美をもらったかのような気持ちになった。
ベラルーシとポーランドの話だけではなく、最後にポーランド政府によるウクライナ難民受け入れの話を持ってくるという構成に、制作陣の聡明さを感じる。国際社会のダブル・スタンダードを浮き彫りにしている。
原題「Green Border」を「人間の境界」と訳したセンス素晴らしい。
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