菩薩

人間の境界の菩薩のレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.0
意味合いこそ違えどハマグチェ『悪は存在しない』との類似ショットがちらほらと、元ネタか?とも思うがこちらは悪しか存在していない世界に僅かに残る人間の良心のお話。って書くと希望の作品に思われるかもしれないが、ここで描かれる現実はあまりにも冷徹かつ残酷で、人間は時に人間である事の意味すらも消失していく。ベラルーシから送り込まれる「生きた銃弾」をそのままリターンし続けるポーランド側、はたから見りゃ何しとんねん受け入れたれーやと思わずにいられないが、それこそがベラルーシ(ないし背後のロシア)の思惑なのだろうし、そうして難民に紛れ込まれせEUの玄関をテロリストに開くことも容易。国境線の真空地帯で人権などと言うものは完全に宙に浮き、軽んじられた命は沼地の底へと沈み、置き去りされた命は森の中に消えていく。どちらの側に落ちるかと言う話でもなく、これは崩壊した理想的共同体の歪みを映し出す鏡の様な作品だと思うし、エピローグがあまりにも皮肉。戦争が生む惨禍と一言で片付けることも出来ない、だからこそ目の前で無慈悲にこぼされる水に絶望を見るよりは差し出されるひとかけらのパンに希望を見るしかないわけだが。
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