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人間の境界のsnatchのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
5.0
言葉が見つからない
涙も出てこない
ただただ、人間が人間にする行為に溜め息ばかり吐いていた

酷い言い方だが、人々が丸ごと捨てられていく
他国にも、難民キャンプにも辿りつけない
以下、中身に触れています




ポーランド政府は難民の受け入れを拒否し、隣国ベラルーシに追い返す
ベラルーシ政府は戻された人々をポーランドに再び押し込む
両国の警備隊が人々を森の中に敷かれている境界の鉄杖網にくぐらせ投げいれる。これを繰り返すのである
極寒の中、水も食べる物もなく身体は疲弊し皮膚は壊れ全身が絶望で浸される
言葉通じずスマホを破壊され
老人も子供も妊婦も男も女も朽ちていく
生きているのに見捨てられていく

どういう事かと言うと、ベラルーシ政府はEUに混乱をもたらす狙いで、様々な事情で各国から逃げてきた難民をEU の玄関口でもあるポーランドに「生ける銃弾」として送り込んいるというのだ
ポーランドの国境警備隊長は若い隊員に「同情すればベラルーシが笑う」と焚きつける

難民に対する壁がバカ高い日本にいる私には、ただただ、あまりにも酷い 蛮行だと見ているしかない。その森で生死を行き来するモノクロの1シーン1シーンが今も瞼に貼りついている

ポーランド人の監督は、この人々を追いやる国境警備隊員の若者も描く。これは仕事なんだと脳を心を麻痺させて暴力を見過ごしていく。彼の妻も臨月。自分がおかしくなっていく
狼も逃げていく。この自分から


逮捕されるリスクを抱えながらこの人々を救おうとする活動家もいる
移民を増やしたくない、自分や家族の生活が脅かされるからと協力を拒む住人もいる
自分たちだってもしかして同じ状況にと想像できるのだろう。協力する人々もいる。声を上げるだろう若い人もいる

75歳のユダヤ系ポーランド人のベテランの女性監督が告発した自国ポーランドの現在
このような経験をした人々も協力して極秘裏に24日間で撮りあげた映画制作関係者の執念
監督は上映を阻止しようとするポーランド政府とも闘っている

この監督が映画という媒体で取り上げなければ私たちは知らないままに、この人々は捨てられていく
以前は死亡した難民が大量に発見されると報道していたが、2014年から今もこのような国境や森や海で3万人近くが死んでいる

ドキュメンタリーではないが、この映像記録が少しずつ事態を動かせればと真に願う
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