この前に観た『美と殺戮のすべて』と同じく、フィクションだったら良いのにと思った残酷すぎる現実を基にした作品。
2021年9月、ポーランド政府はEU諸国への亡命を求める人々で溢れるベラルーシ国境付近に非常事態宣言を出し、ベラルーシからの難民の受け入れを拒否したうえ強制的に送り返した。ジャーナリスト、医師、人道支援団体らの立ち入りも禁止し、難民たちは国境で立ち往生し、極寒の森をさまよい、死の恐怖にさらされた……(公式HPより)。
難民を救おうという人たちがいても権力に握り潰される。支援している人たちの命すら奪われかねない。なんて世の中なんだ、本当に救いがない。
それでも、ほんの一筋の光となったのは、運良く国境を越えた難民たちと彼らを匿う家族たちとの交流の場面。言葉は通じなくても、『千の死を死ぬ』という曲のラップで若者たちが心を通わせるシーンは、月並みな表現になってしまうが、改めて音楽は国境や言葉の壁を超えると強く感じた。平和への想いで溢れる心を一つにする手段にさえなりうるとも思った。
以前、NHKの『バタフライエフェクト』で「ロックが壊した冷戦の壁」という回があった。その時も、デヴィッド・ボウイらの音楽が若者たちの心を動かし、ベルリンの壁崩壊へと繋がったのだった。
音楽を愛する1人として、音楽の力をこれからも信じたい。そして、こういう現実をポーランド政府に上映を妨害されながらも伝えてくれた映画の力を信じたい。
2024.9.30 追記
大好きなサザンも「歌は平和を奏でる武器でしょう」と『ジャンヌ・ダルクによろしく』で歌っている。