あんず

大いなる不在のあんずのレビュー・感想・評価

大いなる不在(2023年製作の映画)
4.2
圧巻の藤竜也!
事前にメディアを通じて藤竜也がすごいと聞いていたけれど、期待以上だった。演技であの目を表現出来るとは、驚き。作品は『ある男』と同じような、静かだけれども観る者を惹き付けて離さないミステリアスなストーリーだった。

認知症の人を相手に「なぜなの?」と問いかけても満足の行く答えは返って来ない。どこか違う世界にいるようでもあり、別人のような時もある。最後まで観ても藤竜也演じる 陽二がどうしてそんな言動をしたのかはよく分からない。けれど、劇中、陽二が大脳新皮質で理解出来ることが全てではない、というような話をしていた。大脳新皮質で思考したり、新しいことを記憶したりすることは難しくても、もっと原始的な脳の部分ではその人らしさは失われないのかなと思った。

息子で役者の卓(森山未來)が舞台で実在の自分と映し出された巨大な自分とやり取りするような場面がある。同時に2人の自分が存在する不思議な状態。その他にも鏡の中の人物がスクリーンに映し出される場面も何度か出て来て、やはり実在と鏡の中、同一人物だけれどどこか違うようで、印象に残った。同時に二人の自分が存在しているのが認知症の症状と重なるのかな~とも思ってみたり。

綺麗事で済ましたり、問題が解決とかいう安易な終わり方ではないのが良かった。陽二の「普通は概念に過ぎない、全ての事象は特殊」という言葉も刺さった。認知症(に限らず全ての病気もその他のことも)の特徴は挙げられるが「普通の認知症」はないし、「普通の人」もいない。
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