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大いなる不在のJPのレビュー・感想・評価

大いなる不在(2023年製作の映画)
2.7
▼二層で語られる、フィクションとノンフィクション

冒頭のプロジェクションを使用した森山未來の芝居のリハーサル。演技をする彼を含めた白い壁に、彼の顔が大きく映され、彼のナレーションと少しずつリップシンクがずれていく。全員森山未來だが、今ここにいる森山未來と、撮影・録音した森山未來がいて、明確に二層構造が提示される。
二層の構造はこの冒頭だけではない。
全体的にノンフィクションのようなフィルム撮影と、役者陣(特に森山未來)のあまりにも自然体の演技。それなのに、森山未來が手紙を読む場面は必ず唐突に、演劇特有の、抑揚のある語りにシフトチェンジする。違和感すら感じるが、これが意図的に示された「人間の二重構造」だ。
認知症もいわば二重構造。つい先日まで普通に会話が成立していたのに、今日は全く別の世界にいるかのように会話が噛み合わない。重要なのは、藤竜也の喋りが、理路整然とした雰囲気で、シャンとした知的な爺さんに見えるところだ。裏表のような、スイッチするものではなく、冒頭のプロジェクションのように、どちらの面も両方同時に見えているのだ。 
過去には戻れないが、無かったことになるわけではない。それどころか、陽二(藤竜也)の過去の情熱を知ったことで、卓(森山未來)にそれが舞台上で憑依し、継承される。

▼面白くなりそうなのに…眠くなる!!

…とここまで今作が提示してきた「面白そうなモチーフ」を並べたり読み解いたりしようとしたが、なんかこうぐっと惹きつけられるものがあったり…なかったりして…眠くなってしまった…。もう演劇のシーンとかほんとは二重構造どころじゃなくて、プロジェクションも、ナレーションも、卓も、それを演じる森山未來本人も、舞台の脚本も、みんなバラバラに重なっていて頭パンクする。五重構造か?!
そもそも、無線とか演劇とか、本当に面白そうなモチーフはずらずらと出てきたが、ひょこっと顔を出すだけでサーッと帰っていく。認知症(=大いなる不在)という大きな穴を浮き彫りにするように、もっと全編を通して出てきてもよかったのになあ…。
まあまた見直してみたら感想は変わりそう。歯応えのある作品ではあった!

▼(余談)シネマ放談の会、マジで楽しい

ここまで考察が捗ったのも、岡山のミニシアター「シネマ・クレール」で想田和弘監督がMCを務める、シネマ放談の会のおかげ。マジで皆さん、老若男女問わず、自分では想像もつかないような切り口や感想がボンボン出てきて楽しすぎる。脳がめちゃくちゃフル回転しちゃう楽しさ。毎回すごく勉強になるから、もはや想田ゼミ。「この会で勉強して、映画の見方が…」とか言ってる人もいたもん。ゼミじゃん!こういう上映会、本当にもっとやりたいなあ…。
また、僕の感想が毎回面白いと、終了後声をかけて下さる方もいらっしゃって、めちゃくちゃ嬉しかったです。本当に励みになるし、なんでこんなに無条件に褒めてもらえるのか、訳がわからなくなるほど幸せです。ありがとうございました。
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