垂直落下式サミング

オカルトの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

オカルト(2008年製作の映画)
4.5
日本怪奇ビデオのベテラン白石晃士監督によるフェイクドキュメンタリー映画。
とある猟奇事件の被害者を取材するドキュメンタリー監督(白石晃士)が、誇大妄想をかかえる生存者と親密な関係を続けるうちに、オカルティックな現象に傾倒していく様をドキュメントタッチで描いている。
監督が実名で役を演じている他、黒沢清、渡辺ペコなど、豪華著名人のカメオ出演も見所。なのにトンデモ感はマシマシに展開し、心霊写真やら、UFOやら、ポルターガイストやら、色々な頂上現象を取り扱っていて、いかにも見世物的で引き込まれる。
事件の重要なファクターとなるアザの紋様がおっ広げた女性器とアナルになっているので、悪ふざけが過ぎる嘘っぽい内容なのは当然だが、ちゃんとした俳優をメインに据えてドラマを演じさせているため、しっかりと実録映画風に仕上がっている。
今回の主役は、江野くん。ネカフェ暮らしの日雇い労働者で無差別通り魔殺人の生き残りだ。
白石晃士作品は協調性のないキャラクターが織り成す掛け合いが映画の見所となっているが、本作では主人公の江野くんとスタッフの女性がその役割を担う。
焼き肉の最中、酒で気の大きくなった江野くんが、取材スタッフの女性に突っかかって嫌な感じになるが、まあ確かに、この彼女の態度は見下しが強すぎる。自分だって胡散臭いドキュメンタリーを作っているのに、他人の胡散臭さに敬意を払わない。へらへらした育ちの悪そうな江野くんの態度も気持ちのいいものじゃないが、それをあからさまに毛嫌いするのもまた悪辣、この場面はどちらも最悪で見ていてつらくなる。
ラスト、生まれてこのかた日本社会の底辺を生きていた江野くんが、渋谷のスクランブル交差点で自爆テロを起こすことになる。
ストーリーのなかで、彼のかかえる反社会的な誇大妄想が次第に露になってくるのだが、これは自分が果たすべき使命なんだと、やっと手にした役割なんだと、心を許した白石に「奇跡」について熱く語る。その実現のために、せっせと準備をはじめる江野くんの顔は輝いている。なにひとつ報われてこなかった「ごみ溜めのような人生」のなかでみつけた唯一この世に生きている実感、それが「奇跡」だった。
最後の晩餐はインド料理とインディジョーンズ。インドとインディ、こんなくだらないことを奇跡だと言える江野くんは、もしかしたら誰よりも素敵な友人かもしれない。
健常な世の中では生きられない。破壊という手段でしか社会と関係できない。そんな男の虚無を不感症の人の波のなかへと送り出す白石晃士。それが使命だと知っているから。彼等の友情をいったい誰が否定できようか。たとえどん詰まりの地獄行きだとしても。