ノラネコの呑んで観るシネマ

2度目のはなればなれのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

2度目のはなればなれ(2023年製作の映画)
4.4
マイケル・ケインの引退作にして、昨年亡くなったグレンダ・ジャクソンの遺作。
ノルマンディー上陸作戦の生き残りである90歳の主人公は、2014年の70周年の式典を最後の機会と考えていたが、妻の具合が良くないためにツアーでの参加を断念。
しかし前日になって妻の言葉に背中を押され、たった一人でケアハウスを抜け出し、海峡の向こうのフランスへと “大脱走”してしまうのだ。
90歳の戦争の英雄の小さな冒険が明るみになると、マスコミが飛びつき、主人公は一躍時の人となってしまう。
本作は実話がベースで、同じ話にインスパイアされた作品が、去年ピアーズ・ブロスナン主演でも作られているらしい。
実は主人公は戦友と交わしたある約束を果たすために、ノルマンディーを訪れたのだが、そこには自分と同じように、過去に何かを置き忘れた人々が沢山いる。
同じ経験を持つ人々との時間は、共感力をなって主人公の決意を強めてゆくのだ。
非常に印象的だったのが、若い頃の妻が工場で働いていると、役人がやって来てある女性に夫の戦死を伝えるシーン。
泣き崩れた彼女を見た妻は、いたたまれなくなってドーバー海峡の崖の上まで走ってゆく。
すると、対岸では、激しい戦火が上がっているのが見えるのだ。
ドーバー海峡は最狭部では30キロちょっとしかないから、夫や恋人いる戦場が見えることもあったのだろう。
激動の時代を生きて、70年以上連れ添った夫婦の絶対的な信頼と愛の物語で、同時に生き残った者が、人生で最後に残った後悔に向き合う物語。
元ドイツ兵と敬礼を交わす描写も感動的だったけど、あのパス貰っても入るのはちょっと気まずいと思うぞ。