ねむろう

女優は泣かないのねむろうのネタバレレビュー・内容・結末

女優は泣かない(2023年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

2024新作_033


下手な私(たち)なりの生き方


【簡単なあらすじ】
スキャンダルで仕事を失った女優・安藤梨花(本名:園田梨枝)が10 年ぶりに地元の田舎町に帰ってきた。理由は密着ドキュメンタリーの撮影のため。しかし、現場にやってきたのはテレビ局のバラエティ班AD・瀬野咲ただ一人。 全くソリが合わない二人の前途多難な撮影がスタートする。なるべくこっそりと撮影をしたい梨枝の気持ちとは裏腹に次々と現れる知人たち。やがて小さな町で噂が広まり、撮影のことを内緒で帰郷した梨枝の存在も家族の耳に入る 父・康夫と大喧嘩の末、町を飛び出した梨枝。その父は今、末期ガンで生死の境を彷徨っていた。父の病状を知りながら、父を避けていた梨枝に怒り心頭の家族。果たして、ドキュメンタリー撮影の行方は?そして、梨枝と康夫の確執は…




【ここがいいね!】
スキャンダルで落ち目になった女優が、自らのルーツや家族、特に父親との関係に向き合い、新たな生き方を模索していく姿が描かれています。
この物語の展開が非常に興味深く、女優がドキュメンタリーの撮影を通して、自身の本音や真実に触れていく過程は、虚実が入り混じる中で自然と観客を引き込みます。
ドキュメンタリー撮影という形式が、作品全体にリアルな感覚を与えており、演技と現実の境界が曖昧になることで、キャラクターの内面が浮かび上がってくる点が非常に見事でした。
さらに、作中で使われる「ドキュメンタリーを撮る」という体裁が、作品そのものをよりドキュメンタリー的に見せている点が新鮮でした。
この「二重構造」によって、人間の本音や内面があぶり出される手法は巧妙で、他の作品で言えば『カメラを止めるな!』(2018)や『愛にイナズマ』(2023)などと通じる部分があると感じました。カメラを通じて人間の本質を描き出す手法が、観客の心に深く響きました。



【ここがう~ん……(私の勉強不足)】
今回の主人公は女優ですが、彼女を追いかけるディレクターのキャラクターについて、もう少し深く掘り下げてほしかったと思いました。
ディレクター自身も何かに苦しんでいる人物として描かれているものの、彼女が抱える葛藤や、その背景にある「やりたいこと」と現実とのギャップがあまり明確に描かれておらず、彼女の生き方の模索が十分に伝わってこなかったように感じます。
彼女が何を目指していたのか、どう変わろうとしていたのかという部分にもう少し焦点が当たっていれば、物語全体により深みが増したのではないでしょうか。
また、作中で「この女優は泣かない」というドキュメンタリーが撮影されているにもかかわらず、カメラが捉えるべき重要な瞬間がほとんど映されていない点も気になりました。
最終的にデータが失われる展開があるため、それ自体が大きな問題とはならないかもしれませんが、やはり主人公が女優であることに強く焦点が置かれている以上、その瞬間をもっとカメラで追ってほしかったと感じました。



【ざっくり感想】
全体的に見ると、父親と向き合うというテーマがクライマックスを迎えるのは本当に最後の瞬間です。
そして、父親は死に瀕している状態であり、彼が娘をどう思っていたのかは直接語られることはありません。
しかし、彼が過去に撮りためた映像やスクラップブックで娘を陰ながら応援していたことが示され、そこには感動がありました。
ただし、その描写がやや紋切り型で、どこかありきたりに感じられたのも事実です。もっとバランスの取れた描き方がされていれば、父と娘の物語がより深みを増したのではないかと思います。
それでも、この作品は虚実が交差する中で自己を見つめ直すという点において非常に考えさせられる作品であり、見応えがありました。
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