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コンクリート・ユートピアのmaverickのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
4.3
2023年の韓国映画。『G.I.ジョー』のイ・ビョンホン、『マーベルズ』のパク・ソジュン、『君の結婚式』のパク・ボヨンの豪華スター共演作。監督は『隠された時間』のオム・テファ。


大災害の中、唯一崩落しなかったマンションを舞台にしたパニックスリラー作品。住民たちは生き残るために様々な決断を迫られる。周囲の人間が助けを求めて殺到するが、自分達にも余裕などない。食料や水、身の危険など、法も秩序もない中でどう判断し行動すればよいかを考えさせられる。題材的にはディザスター系でありながら、そこで生きる人々に焦点を当てた人間ドラマとして優秀だ。

冒頭での高層ビル群が一瞬にして崩壊してゆく様はショッキングであり、リアルなCG描写が話に説得力を持たせている。CG制作に2年を費やし、3階建てマンションと同等のセットを構築するなど、作品への力の入れようが見て取れる。ハリウッドと比べても遜色ないクオリティには驚くばかりだ。

マンションの住民代表として君臨する男を、圧倒的カリスマ性でイ・ビョンホンが演じる。最初は仕方なくという感じだが、徐々に狂気染みた部分を露にする移り変わりの表現力がさすがだ。パク・ソジュンは逆にカリスマ性を抑えての演技。しがない公務員の夫に徹している。いつもは可愛らしい役柄ばかりのパク・ボヨンも、本作では新境地を切り開いている。ほぼノーメイクでの出演に女優魂を感じるし、静と動を使い分けた演技力は見事。最後の方で彼女が見せる涙の演技は印象的。ドラマ『愛の不時着』のキム・ソニョン、『はちどり』のパク・ジフなど、脇を固める役者らも大いに魅力的であった。

生きるためには仕方ないと、そう思いつつも本作のストーリーは残酷だ。このような状況下であれば、人は誰しもこうなり得るのではないだろうか。現実社会でもそうであるように、人が集まればその分だけ問題も増えてゆく。しかも法と秩序もない状況下であればなおさらだ。状況次第で、相手への思いやりを持つのがいかに困難かを痛感させられる。こういう人間の闇みたいなものを描くのは韓国映画お得意の部分であり、胸糞悪いけれども的を得ていて納得してしまう。その上で何が正しいかを悟らせる描き方もされており、現実世界でもこうあるべきと、人への優しさを説いた作品性なのが心に響く。場面によっては痛快で笑いも取り入れてあったりと、あらゆる部分で魅力を感じる作品だ。第96回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表作品にも選出されたのも納得の出来栄えである。


さすがは韓国映画と思わせる力強い作品。ただのディザスター大作ではないのがさすがである。大好きな女優のパク・ボヨンも思った以上に活躍していて嬉しい。期待通りの良作であった。
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