新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得たそうだが事件を起こした沙苗の6年後が主な舞台となっている。
沙苗とお見合いで知り合い過去を受け入れた上で結婚する夫、そして何やら不思議な隣人の女性なども物語に絡んでくる。
『ほつれる』に雰囲気が少し似ているかなと思ったら同じビターズ・エンド
配給。
トンネルに入っていくアバンタイトルから何となくこういう映画ですと宣言している様に感じた。
感情移入できる登場人物や物語の整合性を求めると不満に思う人の気持ちも分かるけど自分は大好きで他の人の感想も聞きたくなるような映画だった。
登場人物がそれぞれ愛についての価値観を持っていて台詞で心情吐露する所はともすれば舞台でやれよと思いそうだが橋本愛、仲野太賀、木竜麻生を中心に見事に映画内リアルを成立させていたと思う。
特に橋本愛演じる主人公、沙苗が先生(木野花)とのカウンセリング中に愛について疑うことなく自分の言葉を持っている様などは圧巻で橋本愛が凄かったのもありチョロい自分は一瞬「そうかも」と思ってしまった。
「愛と愛のようなものがある」とハッキリ断言できたり、「本体があって…」みたいな何やら分かりそうで分からないことを言葉にする彼女にはイラつきと親愛と両方を感じた。
演じた橋本愛自身もこの役を演じる時に普段から精神的に負荷をかけ追い込むアプローチよりは「本体が壊れると表現の精度が下がるから健やかに過ごそうとした」と回想していて、俳優という仕事と沙苗の言う愛はどこか通ずる所があったのかななどと思った。
特異な人物達が愛についてペラペラ語るだけでなく「お前らの言う愛って別に凄くねーから！」という人物もいたのが良かったし、おかしかった。
居心地悪すぎて笑ってしまうシーンなどもあり、だいたいそれは仲野太賀の所で流石だなと思った。
酒の勢いで関係ない人間に当たり散らすシーンは100点。
とりあえず映画の中入って肩抱いて店の外に連れ出したくなった。
終盤のとある展開で「好きな人のこと殺そうとしたことある？」「ないです」
「俺もなんだよなぁ…」とボソッと言うシーンも最高。
ハッとするような台詞だけでなく日常会話の様な言葉でテーマを浮かび上がらせるような脚本も凄く良い。
事件そのものについてはあまり描かれないのでモチーフとして使う必要あったかなと思ったけど、メンヘラとかヤバイやつという括りでカテゴライズされがちだった事件を愛についての映画という形で観せるのは興味深かった。
プラネタリウムでの子役のテンプレ演技が凄く上手く機能していて笑った。
