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陪審員2番のsyuheiのレビュー・感想・評価

陪審員2番(2024年製作の映画)
4.5
2024年のクリント・イーストウッド監督作品。日本では劇場公開されずUNEXTでいきなり配信。

豪雨の夜ジャスティンは運転中に何かに衝突する。鹿でも轢いたかとその場を走り去った彼のもとにある事件の陪審員選出の通知が届く。ある男が痴話喧嘩から恋人を夜道で殺した疑いをかけられた事件だという。恋人が殺されたとされる時間と場所、それはジャスティンが何かを轢いたあの夜のことだった。

94歳をむかえたイーストウッド監督が放つ最新作は、前作『クライ・マッチョ』の不発に加えて日本で進む洋画離れも手伝って、なんと劇場公開をスキップしてUNEXT配信に回されてしまった。これだけでも十分不遇だが、より悲しむべきは、そんな扱いを受けた本作がとんでもない傑作だということだ。

本作が問うのは真実(truth)と正義(justice)の関係。これまでに何百と作られてきた法廷モノ映画ですっかりおなじみの用語になってはいるが、それらの本質的力学とも言うべきあるべき関係を本作はえぐり取って見せる。すなわち、真実を知ったものは正義をなす責務を負い、逃れることは許されない。

難しそうに聞こえるかもしれないが、アメリカの陪審員制度に詳しくなくても全く問題ないほど、ストーリー展開の過程でその仕組や仕事がわかりやすく示される。なのでジャスティンが抱える懊悩(実は自分が犯人で本当のことを言うと人生が破滅する)というサスペンスを誰でも楽しめる。さすがの手腕。

『12人の怒れる男』を踏まえたセリフや描写が登場するため、本作があの映画よりもさらに一歩踏み込んだことを描こうとしていると気づく。そしてそれは、ある意味ではとても残酷だが厳正な結末を示唆することにより成功する。ヘンリー・フォンダが演じた陪審員8番と本作の2番とを比較すると面白い。

トニー・コレット演じる検事がとても魅力的で、真実の追求が正義であるという教えを彼女なりに墨守する。真実の前に謙虚であろうとする。それでも真実を知ったとき彼女の心は揺れ動く。その瞬間、彼女の頭上で揺れていたものは何か?わずか2秒足らずのシーンだがこういう演出のうまさにうならされる。

このシーンに限らずほぼ全編にわたって深読み可能な演出や表現に満ちており、鑑賞後に誰かと議論したくなること必至だ。たとえばラストのシークエンスで何度も言及される「ヒジ」って何の象徴だろう?今年観た全映像作品の中でベスト級に面白く、それだけに劇場公開されなかったことが悔やまれる。

もう1つ、これは確信を持つには至っていないが、あるシーンで動揺した(と思われる)ジャスティンがあるモノを地面に落とす。本作の密度を考えると無駄なシーンは何も無いと思われるため、このシーンの意味についてぜひ鑑賞済みの人と話したくなった。たぶんこういう意味だろうな、とは思うんだけど。

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