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Ryuichi Sakamoto | OpusのEmiのレビュー・感想・評価

Ryuichi Sakamoto | Opus(2023年製作の映画)
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いい意味で退屈な映画だった。色々なことに思慮を散らすことができた。
母親は、私にピアノを15年間習わせてくれた。
毎週火曜日がレッスンだったけれど、月曜日に譜読みをはじめるような、不真面目なクソガキだった
ピアノをやめて2年経った夏、母が誤って、大切な楽譜を全て処分してから、ピアノは触っていない。不真面目だったなりに、ピアノとの生活を愛していたし、合唱コンクールの伴奏を褒められることが、大好きだった。

坂本龍一は去年の3月に死んでしまったけれど、彼の生涯、視界に映るものは、多分8割くらいはピアノの鍵盤だったのだろう。部屋の整理整頓を繰り返すなかで、所有すること、人生で出会うモノたちとの向き合い方について最近はよく考える。一人の人間と添い遂げるピアノがあるということ。
自分には、なにか一つの芸当に一生賭けて向き合うことはきっと難しい。けれど同じくらいの熱量を掛けて、自分の心や考え方に向き合って、逃げずにいたい
アーティストの仕事は、人間の食うこと、寝ること、食うために働くこと、現代的経済生活に、表面的には何ら関わりがない。けれど、愛することには根源的につながっている。人間を愛すること、世界を愛すること、それと自分の見たものや去来する感情を表現することのつながりについて考え続けたい

安定した職を探すこともきっとできたのだろうが、それでも自分の身を捧げて、愛や美のために人生を投げ打つ覚悟で生きているアーティストに敬意を払いたい
彼らのおかげで、真に美しい、鍛錬の先にある景色を見ることができるから。美しさを享受することと、作り出すことは、やはり大きな差がある。
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