三樹夫

アメリカン・フィクションの三樹夫のレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.6
上流階級の売れない作家の黒人が、逃亡中の指名手配犯の黒人と偽って創作のハードな人生を小説で書いたら人気批評ともに大ハネしてしまい困ってしまうというコメディとして宣伝されるが、あくまでそこの所のコメディ要素は映画の一要素に留まるものであり、ミドルエイジに入り人生において問題が表出してくる男性の事柄について描かれたドラマがメインになっている。

多様性で黒人が求められるが、黒人に求められるのはステレオタイプな黒人像で、ギャングやドラッグなどハードな人生を送った話や差別で酷い目に遭った話など定型的なものしか求められないという皮肉になっている。多様性とか言うが、黒人は思いっきり枠の中に入れられる。ヒットする黒人作者の作品は白人が読むことで私は分かっているんですよ理解がありますと言い訳になるか、黒人のハード人生をある種のポルノの様に消費できるものしか求められない。
それで主人公は皮肉でそういったものを書いたらトントン拍子に話が進んでいき、ハードな人生を送ってきた黒人像を演じる羽目になる。そうしたところさらにハネてしまい事態は収拾がつかないところまで膨らみ、タイトルは「FUCK」じゃねぇと出版させないと、あえて契約を潰れるように手は打ってみたものの逆に受けちゃうという悪い方へ悪い方へ進んでいくのがコミカルに描かれる。しかしこのコメディパートは約2時間ある内の4分の1ぐらいしかないように思う。
ではこの映画は何をしているかというと、母親は認知症になり身内に死人も出る、主人公は人格的には嫌な奴なのでそのツケを払う時が来ると、中年になると多くの人が対峙するやもしれぬ問題が描かれる。冒頭の授業の時点でこの主人公は嫌な奴だと分かるが、その後も姉貴からも注意されるし恋人からも切れられる。人格的に問題のあることが中年となり爆発することになる。その結果どうなるかというと周りから人はいなくなり孤独になるという、主人公はそこの所は改心することでギリ回避したようなしてないようなという感じではあるが、人格的に問題のある所を抱えたまま中年になって周りに人が誰もいないという人は現実にいるだろう。中年になったら遭遇するやもしれぬ問題が抑えたトーンで描かれた結構ヒリヒリする映画でもある。
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