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アメリカン・フィクションのkiyotaのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

もっとブラックユーモアばんばんのコメディかと思ったら、いい意味で意外にも落ち着いた洒脱で軽やかな風刺ドラマになっていた。

笑えるとこは笑えるし、笑えないとこは笑えないし(それが笑えるし)。

多様性を受け入れた風で本質的には受け入れられていない、そのことに気づけていない、その完遂の難しさを通して、偏りを生んでしまう人らの滑稽/憐憫/悲哀が垣間見える。

でもってそれを最後の最後にひっくり返して、その中で帳尻を合わせて(ポジティブに変換して)生きる現実を見せる。作家然り、兄然り、黒人らしい黒人を演じる俳優しかり。

人種差別を軸に据えながら、アメリカの現実というフィクションを生きている人々、フィクショナルにアメリカの現実を生きる人々、を淡々と上品にそれでいてアイロニックに描いている。その気取らなさの均衡がとても心地よい。

この映画は、端的な差別的状況をフックに展開させながら、そこに見出されるのは誰かのためのレッテルの物語ではなく、主人公が目指した普遍的なテーマ性を孕んでいると思う。

人は少なからず演技的に/フィクショナルに人生を生きているし、その判断はある意味で選択することができる(できない)。
そうして形成されるこの世界、まるで嘘のような(本質的に真実が明るみに出ない)現実と日常こそ、真のアメリカンフィクションなのかも。
偏りを生み、助長し、そのサイクルの中の何らかの役割を演じること。多様性を尊重する現代で、それは明らかに他人事ではないよなあと思いました。
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