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軽蔑 60周年4Kレストア版のくりふのレビュー・感想・評価

軽蔑 60周年4Kレストア版(1963年製作の映画)
4.0
【軽蔑も薪のうち】

はじめワクワクなかば退屈…でしたが、最後でナルホドそう来たか!締め方は後の『気狂いピエロ』と、あんま変わらないような気もするけど…。www

映画は既に死んだ、との立ち位置から語り出す。ある視点からはその通りなので、同感して付き合えた。が、そこから臨死としての夫婦生活にスライドして後が、段々退屈になる。

共感はしないが、バルドー演じる妻の、解けないメンタル呪縛はよくわかる。毎日が地獄気分だったのではと。あくまで気分でしかないけど、妻とはこうあらねばいけなかったのね。

で、主人公たる夫は、何だかんだいっても結局、“有害な男らしさ”の呪縛から抜けられない。というか、気づかない。これじゃ夫婦仲は延々、平行線で燻るしかないでしょう。

先日たまたま80年代仏映画『飛行士の妻』を見たが、アッチの痴話喧嘩は、男が徹底的に喰らいつきナシ崩しでよりを戻していた。時代も表現者も違うが、現実にアンナ・カリーナと痴話喧嘩していてもゴダールは、裸の王様透明パンツを脱ぎたくなかったのでしょう。

自分の痴話喧嘩を作品化して見てもらい収入にもなる。贅沢でもあり、みっともなくもある。共感する人が現れて互いに傷を舐めあっても、現実は何も変わらないしね。

ここで描かれる愛は欲望のひとつに過ぎず、別に高尚でも何でもない。犬や猫でも恋愛感情はあり嫉妬もする。それに振り回される人生はなんと勿体ないことかと、改めて教わる。

で、どうしようもないからゴダールは、死んだ映画で現実に勝とうとするんだね。てか、そういう気分へ静かに、アゲてゆく。この手管は巧いと感心した。あの海は実際、沁みます。

現実の妻の方は、思い通りにならないならいっそ!…というのがアノ結末でしょう?www

とはいえ、いかにも商業的要請から撮られたとわかるバルドーの全裸肌は、痛美しかった。無意識にでも、アンナ・カリーナの身代り感が醸されるようで、可哀想でしたが…。

…あ、もしかして、妻への愛憎を本作で予行演習して、『気狂いピエロ』でとうとう想いを遂げた!ってコトなのだろーか?www

一方、監督役フリッツ・ラングは好き勝手やっていて、どうでもいいという意味で、いいですね。ゴダール映画ではゴダールをバカボンパパに思える場合が多いけど、今回は、ラングせんせの方がバカボンパパのようでした。でもきっと、これでいいのだ。

暴君プロデューサーの駆る赤いスポーツカー絡みが、尋常でないアクションを見せていて、画的には異様に惹かれました。ゴダールってこんな狂い方できるのかな?撮影ラウール・クタールの功績じゃないかって気がしますが。

<2023.11.22記>
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