いわゆる「映画好き界隈」と常に距離があって再三ここで書きまくっていることではあるのだが、かつての「アリ・アスター」への熱狂にも「?」があって、ほぼほぼ期待がなかったのだが、本作は監督のクリストファー・ボルグリの作品としての風合いが強いようで安心して楽しめた。
他人の夢に出現するようになった大学教授のポール(ニコラス・ケイジ)。という「A24」っぽいというアイデアに対して、そこまでシュールになりきらず割とわかりやすいエンターテイメントに演出しているところが好感触。
逆に言えば、展開などもそこまで意表をつくものがない、ということでもある。
自分の実力を過大評価しがちで、皮算用で生きているポールのキャラクターもそこまで新味はないのだが、その点はまずニコラス・ケイジの演技力と佇まいの力が大きい。
しかし、その演技力によって担う部分が大きいからこそ、ポールのキャラクターの持つ他力本願さや、空気の読めなさ、独りよがりな考え方などのディテールに対して、キャラクターを過度に誇張しないスマートさが本作の演出の醍醐味がある。
人生はアンコントーローラブルなものであるにも関わらず、だからこそなのかもしれないが「そう思いたくない」というのが人の常で、ポールの持つ愚かしさは我々とそんなに大差がない。
それ故に「バズる」ことでの承認欲求が刺激されることの切実さは現代性というものだし、そこからの転落の残酷さも、日々現代の社会の日常そのものになっている。
本作から「現代的」あるいは「社会の姿」として観た時に完全に割り切れてしまって余りがないという言い方ができないわけではないが、それ故のオーソドックスな手つきの演出に終始安心して観ることができた。