ぶみ

若き見知らぬ者たちのぶみのレビュー・感想・評価

若き見知らぬ者たち(2024年製作の映画)
3.0
何が彼を殺したのか。

内山拓也監督、脚本、磯村勇斗主演によるフランス、韓国、香港、日本製作のドラマ。
父の残した借金を返済しつつ、病気を患う母の介護をする主人公等の姿を描く。
主人公となる風間彩人を磯村、恋人の日向を岸井ゆきの、弟の壮平を福山翔大、親友の大和を染谷将太が演じているほか、霧島れいか、豊原功補、滝藤賢一等が登場。
物語は、冒頭パンパンと不穏な音が繰り返されるなか、母親と息子が登場するのだが、その部屋の様子も含め、ここだけでこの家庭が何かしら問題を抱えていることが推測されるため、説明はなくとも掴みとしては十分。
以降、借金を返しつつ、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケスナックで働き、なおかつ難病による母の介護と、もはや考えられる現代の不幸を全て抱えてしまっているような彩人の日常が描かれるのだが、不幸な男を演じさせたら、右に出る者がいないであろう磯村、そして彼を献身的に支えるもののストレスで過食症となってしまっている看護師の日向を岸井と、テレビドラマよりも映画に軸足を置く演技派の二人を始め、とにかくキャストの演技は文句なし。
また、気がつくと長回しが多く、その長回しの中で現代と過去の回想シーンが登場するのが特徴的であり、とりわけそんな演出も絡めた終盤にある壮平の格闘技の試合は、途中一回カット割があったものの、圧巻の一言。
加えて、突如題名が挿入される衝撃のタイトルバックと、それに呼応したような終盤のワンシーンも秀逸。
ただ、問題はここから。
前述のように、世の中のありとあらゆる不幸を抱えたような風間家において、霧島演じる母親の症状は到底在宅で看ることができるものではなく、ショートステイや一時的な入院も可能とも思われるのだが、特に彩人が自宅での世話に拘るのが、母親に対する何らかの感情なのか、はたまた経済状況からくるものなのかが読み取れず、全てを抱える理由が伝わってこなかったことが一つ。
さらには、神奈川県警の対応があまりにも杜撰過ぎて、事件の現場に少なくとも二台のパトカーが駆けつけていたのにも関わらず、隠蔽が成立してしまうし、滝藤演じる警察官にしても、その状況から、何はともあれ救急要請すべきであったり、同じく警察官となった彩人の友人を始め、伏線が全く回収されなかったのは流石に不幸の上塗りをしたいがためのものに感じられ、冷めてしまった次第。
クルマ好きの視点からすると、両親が開業したカラオケスナックのオープン当時の回想シーンで、店先に懐かしのトヨタ・スプリンターカリブが止まっていたのは見逃せないポイントであるのに加え、鉄道好きからすると、終盤の空撮で、東武鉄道の500系特急電車、愛称「リバティ」と思しき車両が走っていたのは、つい注目したところ。
キャストの演技力に要所要所の長回し、スプリンターカリブを筆頭とした細かな時代考証等、細部まで考え抜かれたクオリティは文句なしである反面、そういったハード面以外のところで、前述のようにリアリティが薄かったのは非常にアンバランスで、もはやファンタジーと化していたのが残念であるとともに、カラオケで吉田拓郎作詞、作曲、かまやつひろしによる「我が良き友よ」を唄いたくなる一作。

本当のことが聞きたいんです。
ぶみ

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