このおもてなし、何かがおかしい。
ジェームズ・ワトキンス監督、ジェームズ・マカヴォイ主演によるスリラーで、日本では本年五月に公開されたクリスチャン・タフドルップ監督『胸騒ぎ』のリメイク。
旅先で出会ったイギリス人家族から招待状を受けたことから、彼らの家を訪ねた主人公家族に巻き起こる出来事を描く。
オリジナル版は鑑賞済み。
主人公となるアメリカ人夫婦のベンとルイーズをスクート・マクネイリーとマッケンジー・デイヴィス、彼らを招き入れるイギリス人夫婦のパトリックとキアラをマカヴォイとアシュリン・フランシオーシが演じているほか、彼らのそれぞれの子どもとなるアグネスとアントを加えた二家族が中心となり、登場人物もほぼこの六人。
物語は、旅行でイタリアを訪れたアメリカ人家族とイギリス人家族が偶然出会うシーンでスタート、その後、イギリス人家族の家で休暇を過ごす六人の姿が描かれるのだが、オリジナルと比較すると、デンマーク人家族のビャアン、ルイーセ、アウネスがアメリカ人家族のベン、ルイーズ、アグネスに、オランダ人家族のパトリック、カリン、アーベルがイギリス人家族のパトリック、キアラ、アントと発音の関係もあって一部名前は変わってはいるものの、キャラクター設定はほぼオリジナルどおり。
特に物語の前半は、これまた概ねオリジナルをトレースしているため、結構既視感満載であったのはリメイクの宿命とも言えるもの。
また、オリジナルが正直あまり馴染みのない俳優陣が起用されていたため、誰が被害者になり、誰が物語の核となっているのかが全く予想つかなかったのだが、本作品は招いた側の家族の主を知名度抜群で、かつサイコパス役を得意とするマカヴォイが演じているので、こいつが悪の元凶であることは自明の理。
ただ、終盤の展開に関しては、オリジナルとは全く異なっており、かなりクセ強めで「世界を震撼させた、想像を絶する15分」のフレーズが伊達ではなかったオリジナルと比較すると、かなり毒っ気が薄められ、わかりやすいものとなっていたのは賛否が分かれるところなのだが、これはこれでオーソドックスな面白さを感じた次第で、もはや好みの問題。
クルマ好きの視点からすると、いかにも環境負荷を考えています的な発言が多いルイーズを妻に持つベンの愛車がテスラのモデル3、かたや人里離れた一軒家に住むパトリックのクルマがかなり古めなスバル・アウトバックであったのは、それぞれの人となりが端的に現れていたポイント。
オリジナルが北欧スリラーならではの雰囲気がムンムンしていたのに対し、オリジナルの監督であるタフドルップが製作総指揮にクレジットされているものの、全体的には前述のように間口が広げられたサイコ・スリラーに変貌しており、オリジナルを知っていれば、その後半の改変を、知らなければ純粋に楽しめる仕上がりとなっているとともに、日本版リメイクがあるとするならば、伊豆に遊びにきていた東京在住の家族が、北海道の酪農家に招待される設定として、ベン役を滝藤賢一、マカヴォイ演じる不死身のパトリックは綾野剛か井浦新あたりがハマると思う一作。
症状は消えても、原因は治らない。