【シッチェス映画祭2023 New Visions部門スペシャル・メンション】
アリアーヌ・ルイ・セーズ監督の長編デビュー作。ヴェネツィア映画祭ヴェニス・デイズ部門に出品され監督賞を受賞、シッチェス映画祭ではNew Visions部門スペシャル・メンションを受けた。
面白かった。一風変わったヴァンパイアもので、一種の青春映画でもある。ヴァンパイアものでありながら爽やかなラストが気持ちいい。
感受性が豊かすぎるが故に人を殺せないサシャ、自殺願望を持つ青年ポールの二人の運命が交錯していく。
ホラーやスリラーというより青春映画という要素が強い。確かに血を吸う描写や殺人シーンが描かれるが、それよりもサシャとポールの心の交流を軸にしている。
サシャはポールを殺すのか、彼女はヴァンパイアとして一皮むけることができるのか、そんなサスペンスで引っ張る演出が巧みだ。
演者もみな素晴らしく、それぞれの内面を丁寧に描けている。繊細な心理描写が特徴的で実に豊かだ。
バディもののようになるラストはそれぞれの最善の選択だろう。この二人の物語をこそ見てみたいと思える魅力的なエンディング。長編デビュー作とは思えない成熟した演出が素晴らしい。非常に豊かで魅力的な小品だ。監督の今後に期待。