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バティモン5 望まれざる者のmorettiのレビュー・感想・評価

バティモン5 望まれざる者(2023年製作の映画)
3.5
移民と貧困と格差と排除と暴力と不寛容を描いた「レ・ミゼラブル」のラジ・リ監督の最新作。
今回も同じような現代的なテーゼを内包した、パリ郊外の移民の街となった団地を舞台としたゴリゴリの社会派でした。
超ハードだよぉ〜。

前作はクライムストーリーとしてのサスペンスでかつ活劇的なスペクタクルの面白さに振っていたけども、今回はより葛藤のビビッドな人間ドラマに重きを置いていた印象。
それぞれの思惑が負のベクトルで連鎖していく構造は同じながらも、蒙昧な為政者によってひとつひとつの選択が悪い結果へと向かうのだから余計にやるせないし哀しいし皮肉である。

そしてその根本原因がはるか下の地層に埋まっていてどうしようもないという、ヨーロッパの歴史と現実を目の当たりにした気がします。

ちょうど今、「パチンコ」という朝鮮半島からの移民の小説を読んでいるのですが、日本にも昔から移民と貧困と格差と排除と暴力と不寛容の問題はあったし今もあるわけで、この映画で描かれた弱者がより弱者に追い詰められる現実の根っこは、日本のわたしたちの足元にあるということに改めて気付かされました。

時々どこどこの町の〇〇人が…という冷静さを欠いたほぼヘイトの情報を目にしたりしますけど、その情報に潜む無知に眩暈を覚えつつも、ではどうすればいいのか?唸るしかないわたしがいます。

ただ本作には、最悪の事態が起こってもそれでもなんとか中庸であろうとする人々の勇気にラジ・リ監督のまなざしがあった気がします。そこがなんとか、息も絶え絶えながら明るい兆しがみえるのかも…というところ。

とはいえ、いわゆるメッセージ的には大事なことを謳う映画だとは思うけど、映画としてはうんまぁ力作だけどフツー…といったところ。前作でゴリゴリ強硬派のマッチョな警察チームリーダーだった俳優さんが本作では棚ぼた市長役(でも理想主義的強硬派)に扮していて、ガラッと雰囲気が変わっていて面白かったです。

いくらニュースを見ていてもマクロンがどういう政治家であるかくらいしか知れないので、こういうストリート目線でのパリの空気感を体験できるのはありがたいことです。四カ国語くらい出てきて字幕も大変そうでした。
妻よ、呑気に杏ちゃんのYouTube観てる場合ではなーい。
(わたしも観てますが)
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