SANKOU

恋恋風塵(れんれんふうじん)のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

冒頭のトンネルを抜けた先の緑の景色にまず引きつけられたが、全編通して風景描写がとても繊細で心が洗われるようだった。風景と同じく引きのショットでそこで暮らす人々の自然な生活が繊細に美しく切り出されていると感じた。故郷を離れて台北で仕事を見つけた青年アワンと幼なじみのアフン。お互いにはっきりと口には出さないが、引かれあっている二人の姿を、そっと優しく見つめるようなカメラワークがどれも素晴らしかった。変わらない景色の中で、いつの間にか成長していく彼らの姿。とても穏やかな作風だが、炭鉱のある生まれ故郷の村の暮らしは決して豊かではないし、街に出てからの生活も決して楽ではない。二人で買い物に出掛けた先でバイクを盗まれた事に気づいたアワンが、別のバイクを盗もうとした時に、おろおろしながらもはっきりと辞めさせようとしたアワンの姿がとても印象に残った。兵役に出るアワンを爆竹で見送る祖父の姿が何だか可愛らしかったのと、薬用人参よりもサツマイモを育てる方がずっと難しいという祖父の言葉が耳に残った。決してドラマチックではないし、台詞でストーリーを語る作品でもない。だからこそ、何でもない日常を何気ないシーンで魅せる作り手のこだわりと上手さを感じた。ゆっくりと時間は流れているようで、ある日世界は突如過酷な現実を突きつける。すべては縁だ、という祖父の言葉のように、どうしても変えられない流れはあるのかもしれない。そして、どんなに変わらないように見える日常や景色も、少しずつ変化しているのかもしれない。
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