ハドソン川畔シンシン刑務所(ここって敷地内をメトロノース鉄道っていう通勤列車が縦貫している!)で行われている更生プログラム「芸術を通じてのリハビリ」(Regabilitathon Through the Arts=RTA)を描いた映画。役者さんの多くはシンシンで実際にこのプログラムを受けた元服役者なので、「再現ドラマ」とも、来し方を振り返る「ドキュメンタリー」ともいえる内容。
というと、やはり『アプローズ、アプローズ』(2022年フランス)を思い出します。
こちらは1985年のスウェーデンの刑務所で俳優・演出家のヤン・ヨンソンが収容者と一緒に演じた『ゴドーを待ちながら』に拠っていて、となると96年に始まったシンシンのRTA開始にはそのことも大きく影響しているのでしょうね。
『アプローズ〜』は舞台をスウェーデンからフランスに移しているので、登場する収容者もブルキナファソ、チュニジア、ロシアなどその出自が多彩なこと、演目が、待っても待っても来ないゴドーを「待つ」芝居であること、そして何より「脱獄」というカタルシスがあるということ(これも実話!)なんかで、話としてはある意味出来過ぎ。
串田和美さんは、演劇界では有名なこの事件に刺激を受けて『ゴドーを待ちながら』の全国公演(緒方拳さんとか参加)で網走刑務所でも上演したとか。
実は、15年以上前の話になるけど仕事で矯正施設(刑務所)で更生プログラムの端っこを担う仕事をしたことがあります。(刑務所運営を半官半民でというビジネスですね)
敷地を区切る塀がコンクリートの壁じゃなくてフェンスだということ、(繰り返すけど)敷地内を鉄道が走ってることなどなど、私が覗いた世界とのあまりの違いに愕然としますが、でもプログラムの方向性みたいなものはそんなに違わなかったな、と。
その成果や如何に、となるとこれまた彼我の感ありなのですが。
肝心の、どんな芝居がどう演じられたのか? については『アプローズ〜』に比べると随分物足りなく感じました。演者たち(RTAの経験者たち)は自身の過去実体験と映画での芝居体験という「二つの役柄」を演じなければなりませんから、そこに「映画の中での芝居の役者」という第三の役柄を追加することには少し負荷が大きすぎたのかもしれません。