Kachi

シンシン/SING SINGのKachiのレビュー・感想・評価

シンシン/SING SING(2023年製作の映画)
4.1
Rehabilitation Through Arts(RTA)という更生プログラムがあることを本作で初めて知った。元受刑者が、自ら受刑者時代を演じる。それも当時自らが参加していた演劇に興じる受刑者役で、という本作のコンセプトは成功していると感じた。

黒人の収監者を描いた作品は、過去に無数にありそのどれもが、黒人であることに起因する差別・偏見を白日の元に晒すような内容が中心だが、本作はどちらかと言えば、「人生=劇場」というような図式を浮かび上がらせて、演じることに想いを馳せる作品だった。

籠の中の鳥である受刑者のバックグラウンドは様々だ。誤認逮捕の可能性があった者、罪の意識に苛まれながら娑婆の世界への復帰を恐れている者、あまり反省していない者...

そんな受刑者の中が、束の間現実を忘れられるのが、自分が自分以外の何者かを演じられる舞台演劇であり、稽古を通じてお互いの役を理解し、人間性を回復していく過程が丁寧に描かれていた。

元受刑者同士の友情も去ることながら、私の本作のお気に入りは、いくつか本作で描かれているある輪になって話すシーンだ。輪を作る人たちの間には、座席位置による序列はない。互いが互いの顔を見やすい状態で、自分を曝け出し、互いの深い部分を受け止めて理解する。

本作ではこの「輪になる」シーンの話し合いが、彼らの絆を深めていることが手に取るように分かる。演劇シーンそのものよりも、その「過程」を重視するというコンセプトに合致していた。
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