Kachi

ミッキー17のKachiのレビュー・感想・評価

ミッキー17(2024年製作の映画)
4.0
【科学技術の進歩と人間の業】

人体複製が可能となった未来社会が舞台。

地球とは異なる生態系の惑星に移住する計画を立てた人類は、かつて第二次世界大戦中に731部隊が秘密裏に行っていた人体実験を行う倫理的壁を突破した。それが人体複製を許諾した人間に対する人体実験である。

マウスと化したミッキーは、理科の実験さながらに様々な人体実験を被験者となり、Expendable(エクスペンダブル=使い捨て)と罵られながら惑星移住計画の最先端を突き進む。いわば、人体実験される「ミッキーマウス」である。夢の国の主人公と同じ名前を持つミッキーが、本作においては最も蔑まれて、使い倒される存在の蔑称であることが、何か米国中心社会の終わりを予感させる。

ミッキー17が死を迎える前に複製されてしまい、17,18が同時に存在してしまってからの展開は白眉。ただ、超SF展開になるのではなく、むしろ人間の根源的な欲望を見つめるような展開となった。

・食欲
移住計画では4.5年ほど地球から離れた惑星に向かうため、エネルギーを補給するための食事はとても不味い(らしい)。その食料ですらMultiplesとなった2人で分け合わねばならないという切実な問題に陥った。
ただ、この点はあまりクローズアップされるのとなく終わる。

・性欲
ソウルメイトとなったガールフレンドをミッキー17,18が取り合うシーンと、ミッキー17だけに惚れた別の女性が奪い合いを始める。性に奔放とは言わないが、閉鎖空間においてそれでもなお生きている実感を保てるのは、愛し愛される性愛に自分の存在価値を見出しているから?

・死への恐怖
「死ぬとはどんな感じなのか?」という問いは、本作前半からミッキーに対して投げ掛けられるが、繊細な問いであるとして回答を控えていた。

後半、やはり同じ問いを投げ掛けられるがその際にミッキーは正直に「何度でも死は恐ろしいものだ」と吐露する。それに記憶の一貫性を保つために記録自体はしているが、実際のところ死んだらどうなるか?はミッキー自身も分からないのであろう。

本作は、帝国植民地主義的な移住計画の推進派と反対派の対立軸で見ても見応えはある。ただ、それはある意味使い古された物語であり、19世紀の所業の数々を20世紀以後の私たちは様々な形で反省し続けてきた。本作もその系譜に位置付けられるが、それ以上に描かれていたのが、新しい技術が生まれたら、必ず使ってしまい時に暴走してしまう人間の性であった。
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    (フォロバします) レビューは備忘録として書いています。きちんと2回、3回と噛み締めるように鑑賞して、読み手を意識した感想を書きたいところですが、現時点では速記に留めています。 最近の関心事は、上…

    (フォロバします) レビューは備忘録として書いています。きちんと2回、3回と噛み締めるように鑑賞して、読み手を意識した感想を書きたいところですが、現時点では速記に留めています。 最近の関心事は、上映時間が長くとも3時間余りという映画作品の中で、登場人物の心の葛藤や成長がどう描かれているか。画面上の悩める人たちを観ながら、私自身も物思いに耽るのが好きなようです。 あまり、いいねやコメントをする時間がないのですが、ふと目に留まったレビューに影響されて、次に観る作品を決めたりしています。