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わたくしどもは。のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

わたくしどもは。(2023年製作の映画)
2.4

このレビューはネタバレを含みます

本作の試みは興味深いところがあるものの、その試みに成功しているとは到底思えない仕上がりに、観賞前に期待しすぎた自分を憂う。好み云々の前に本作は、映画のルールを破っているカットやシークエンスが散見され、折角の美しい画や音楽に水を差しているように感じた。

例えば、ワンカットで飛び降りた舞台に立つふたりから能を見せるカット。そこから舞台に立つふたりをアオリで捉えるカットへとつなぐのだが、このカットワーク、イマジナリラインを越えてしまっている。この世とあの世を行き来する話でもあるから、そういう演出という捉え方もできなくはないが、たとえそうだとしてもそうする意図がわからない。それとも単なるミスだとしたら、、

それから終盤、バイクでトンネルに入っていくふたりのカット。同じカット内でバイクの転倒音が聞こえ、次のカットで地面に倒れたふたりを見せる。ここで問題なのがヘルメット。トンネルに入っていった時点ではヘルメットを被っていたふたりだが、次のカットではヘルメットがどこにもない。いくら作品のためとはいえ、公道を走るのだからヘルメット着用は必須だろうが、であればカット同士のコンティニュイティを守るために、次のカットでもヘルメットをどうにかして処理する必要はあっただろう。こういうミスは、作品のクオリティ、好み以前の話である。

好みと言う点でも正直自分の肌には合わなかった。本作が描くのは49日、つまり仏教の慣習である。しかし、キイさんが49日を終えて、天国(とあえて言っておく)へ向かう様子、特にその裏で流れるパイプオルガンのような音色はキリスト教を思わせる演出。まあ、何ともちぐはぐな、、。制作陣の宗教に対するアンテナの低さが垣間見えてしまう残念なシーンだった。

アンテナの低さと言えば、ジェンダーや障害の描き方。どうやらふたりがいるのがこの世ではなくあの世で、あの世の存在はこの世の存在に見えもしなければ声も聞こえないということを描くためだけに、その青年を可哀想な存在として描き、自殺未遂までさせる、、こういう現実もあるかもしれないし、シーンとして入れると言う選択肢もあるだろうが、少なくとも本作の描き方は極めて雑。こういうのを入れておけば、、といった制作陣のいやらしさが見え隠れして、どうにかならないものかなと感じてしまった。

他にも気になることはあるのだが、特に気になったのはこのあたりだろうか。映画を作ること自体はとても大変なことだし、完成度はともかくこういう作品も多くの人の目に触れ、多くの人が意見を交換するきっかけとなって欲しい。そうしていくことで廃れつつある日本映画界の底上げになるのではないだろうか。自分への戒めの気持ちも込めて。
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