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接吻泥棒の一のレビュー・感想・評価

接吻泥棒(1960年製作の映画)
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プレイボーイのボクサー宝田明と「アンパンのおへそ」こと団令子ほか三人の愛人たちによる和製スクリューボール・コメディ。室内でもよく動くカメラとよく動く人物が賑やかす画面とテンポは流石だが、市川崑よろしくめちゃ早な台詞回しで展開して宝田と団の接吻に至るオープニングは特にスゴい。そこにちゃっかり登場する原作者・石原慎太郎はエンディングにも顔を出して、一応ハッピーエンドを迎えた宝田と団に「作家がそんな無責任なことをしていいんですか」と糾弾されたり、「女が書けない」と言わされたりしている。川島と松山善三による原作改変については斎藤綾子の分析批評が非常に参考になるのだが、斎藤が論じるように「石原のマッチョな男性主義と戦後民主主義の女性像に対する潜在的な嫌悪をさらけ出して笑いの対象とし」、「石原の原作に通底する価値観を転覆させてしまう」のはつくづく痛快だ。いかにも石原らしい終盤のボクシングの試合シーンが、それまでのテンポと比べてみっちりと生々しく撮られているのも面白い。和服でにこにこセスナ操縦する新珠美千代もウケる。
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