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ありふれた教室のmorettiのレビュー・感想・評価

ありふれた教室(2023年製作の映画)
4.0
ルービックキューブの一面すら揃えたことのない人間ですけど、全ての面が整然と揃うことが正しく美しい状態だとは限りません。わたしは一面も揃えられたことがないですけどもね!
 
1番タチが悪いのはWOKEキッズたちのクソ新聞ですよね…〝正義〟や〝真実〟を声高に唱えるジャーナリズム怖い。というか中庸にとどまろうとする胆力を知らない者のおそろしさ、でしょうか…。
 
正しさを振りかざした瞬間にそれは正しくなくなってしまう世の中なので「これは正しいのではないかなぁ」くらいのスタンスで暮らす方がいい気はしますけど、主義主張や論理だけではことが進まず、そこには好きとかムカつくとか、あまりにも人間的な感情が差し込まれてしまうことが、なんとも即し難い人間の業であると思います。

そこからは何人も逃れられないし、人が集まって形成される集団の中ではルールや制度が恣意的に運用され、個人の感情が誘発増幅される怖さもあるなと思いましたね。
それでみんな自覚なしにピコピコハンマーから釘バットに持ち替えて振り上げてるんだもん。いたい!いたーい!
 
そういう意味でカーラとオスカーの関係性は面白かった。
生徒に対するフェアを意識しながらもカーラは聡明なオスカーを気に入っているし、それをオスカーは受け取りささやかな優越感とカーラへの信頼を抱いてもいる。
クラスという集団の中で不均衡ともいえるこのふたりの関係性がこじれまくる様子に「なんでこんなことに…」となるし、最終盤のふたりの対峙のはての、話せば判るのか、判り合えないことが判ったのか、はたしてそうではないのか…という物語の開かれた結びがやけに印象的でしたね。
1と0.9999は同じ数字か否か、終わって振り返るとオスカーの主張ではない証明が実に味わい深いですよ。
 
アスガー・ファルハディのような社会的テーマへの焦点やドラマの作り方、ダルデンヌ兄弟のような追いかけ型の映画的な語り口、それが99分でバシッと濃縮してハマっていて、なかなか見事な演出と脚本であるなぁと膝を打ちましたが、なんとも長い99分でした…ジャッキー映画なら体感3分なのに。
 
カーラが選んだおとり捜査的な盗撮という行為に過剰な拒否反応があるのは密告が常態化した東ドイツの経験があるだろうし、カーラのバックグラウンドがポーランドでそこに絶妙なニュアンスがあるのも、そこがドイツでヨーロッパだからなんだろうな、と思いましたね。
ポーランドはソ連/ロシアと関係が深い国でもあるので、そこにロシアのウクライナ軍事侵攻が起こっている現在ではそういう意味もあるのかもしれません。学年主任みたいな先生がポーランド語で話しかけようとしてカーラが拒否するあのやり取りに潜む複雑な歴史と感情は、島国に住む日本人だと読み取れないかも。

とにかく、この教室で起こる事件の暴風域にわたしたちを誘い込む巧みな語り口とリアリズムがクオリティ高ぇですので、映画館で観て「じゃ、どうすればよかったんだよぉ〜」と悶絶するべし。
(動画確認した後、冷静になればよかったんじゃね?)
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