このレビューはネタバレを含みます
主張か証明か。
「ありふれた教室」
Das Lehrerzimmer(職員室)
The Teachers’ Lounge
2022年 ドイツ 99分
@UPLINK京都 土曜14:45〜 観客32人
「処刑教室」(Class of 1984)が制作されたのが1982年。教室模様は、あの頃に想像もしなかった複雑な社会の縮図になった。
冒頭の数学の授業。
「0.99999999…は1か?」という質問を担任が出す。
「残ってる000000000…1があるから1ではない」と答える生徒と、僕には理解できない式を使って論理的に「1だ」と答える生徒。
担任は生徒へ尋ねる。
「それは、主張?それとも証明?」
中1の授業の質に驚きつつ、これおそらく作品のテーマのひとつだろうなと思ってたら、やはりそうだった。ただし、僕などの予想の遥か上をいく、鮮やかかつ深みのある演出が待っていた。
ちなみに「それってあなたの感想ですよね?」と問われたら、はい、主張でも証明でもなくただの感想ですとしか言えない。
このボタンの掛け違いの連鎖を知っている。
それが生む人間関係の変化を知っている。
譲り合いも認め合いもしない見解の相違、あと一言が足りない、その一言が多い、正義の押し付け、素人ジャーナリズム、こどもはいつも犠牲、こどもは大人が思う以上に真っ直ぐに見ていて、だいたい分かってる。
ああしんどい…映画を見て胃が痛くなったことはないけど、なんかお腹が痛む…ありふれた光景だ。
原題は職員室。
学校教育や教師の現実を見せながら、職員室という隠蔽空間の異様さを炙り出す。
だが大人社会のネガティブな影響を受けている生徒たちも黙っておらず、恐ろしい姿を見せつけるから、原題よりも学校全体をイメージできる「ありふれた教室」という邦題は実に秀逸だ。この邦題だからこそ、これは社会の縮図であるというメッセージもよく伝わる。
思いっきりネタバレになるけど、誰もここまで読んでないと思うので書いてしまおう。
主張か証明か。
ルービックキューブは証明。
状況を全部理解してるんだよという証。
椅子に座ったまま担がれる姿は主張。
それでも母を守りたいんだという主張。
唸った。お見事。