ハシゴダカ

あんのことのハシゴダカのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
3.9
辛い映画だった…。

事前に情報を入れずに観たので、この救いのない展開に驚いた。
最後そうなることを知っておけば良かったと、観た直後は思った。
主人公のあんがどうなるかという前提を知っているか知っていないかで、見方が変わるなぁと思ったので。

ただ、やはり、知らないで観た方が、あんの行く末を見守りながらお話しを追うことになるので、ことさらに終盤の展開に痛ましさを感じるかなと思い、やっぱりここは何が起きたかは伏せておきます。

あんを演じる河合優実が、どことなく最近の『ミッシング』でおなじみ石原さとみの若い頃に面影が似ているなぁと思いながら観ていた。
あっちも辛い作品だったけど、こちらもかなり。石原さとみは本作をどう見るかな。

作品、といえば。
オープニングで、「この映画は事実を元にした〜」というテロップが出るけど、ここを「作品」とせずに「映画」とした辺りが、入江監督における本作のあり方の宣言かなと思ったり。
あり方とは、実際にあった事件を題材にして映画を作るにあたり、その当事者達に対して誠実であろうとするもので、そういう姿勢は映画全体からも伝わってきた。

佐藤二朗もホントに良かった。
クズ野郎だけど、それとは別に、本気であんを更生させようとしていたと思える。でも、それはそれで、彼のクズサイドも矛盾なく存在している人間だと感じさせる名演。
あんを2回抱きしめるんだけど、2回とも泣いてしまった。
それだけにね…。
それだけに何やってんだよ、バカ野郎!

稲垣吾郎も稲垣吾郎だよ。全く!
この人は、無自覚に人を傷つけてしまう役ハマりすぎ。最高。

ただ、本作をきわめてシリアスに現実の問題と接続して観客に突きつけるねらいで作ったのだとしたら、ちょっと状況が特殊すぎてしまったかなとは思った。
あんはすぐ隣にいる感じがしなくなったというか。

その特殊要因の1人。河井青葉演じる、最悪にクズな母。あえて良いところを全く描かないという思い切り。それが良いか悪いか、ちょっとよく分からないです。
ただ、河井青葉さんなので、どことなく顔と声に品の良さが出てしまったような…。
少し昔だったら、こういう役といえば大体渡辺真起子の専売特許だけども(笑)。

『ミッシング』も辛い話だったけど、わずかに本当にわずかに希望のようなものを感じたけれども、本作はもう希望なんてなく(笑)ひたすら暗い気持ちで劇場を出た。

でも、監督はそうさせたかったのだろうと思うし、こういう映画があってもいいと思う。

あ、安川午朗の劇伴も素晴らしかった(相変わらずシンセの使い方が匠)。
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