閃光を浴びて

あんのことの閃光を浴びてのネタバレレビュー・内容・結末

あんのこと(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

映画を観て、くらう、とはこういうことかと痛感した。
これは「市子」を見ても思ったことだが、与えられて生きてきた人間というのはそうではない人たちの存在になかなか気づくことができない。私たちが見ずにいる人たちが、いて、生きているのだということを、いつも忘れずにいたいと願う。

この映画において観客から見た一番の悪は杏の母親であると思う。けれどこの映画は、母親一人だけを非難するのはできない構図になっている。彼女があのような人になってしまったのはその母、つまり杏の祖母、の影響がどれくらいあったのだろうと考えた。私は映画を観ている間、杏が祖母のために介護施設で働きたいと言っている、という一点だけで祖母のことを捉えていた。でも、杏が初任給で買ってきたケーキを箱の中から取り出す仕草も、母親の暴力を止めたことがたった一回であることも、“意味”を感じざるを得ない。言い換えればそのたった一回が杏にとってはこの上ない希望であったということでもあるが、それでも母がそうなってしまった原因の一つに、祖母の何かがあったかもしれない。そう考えさせられる映画の構図というか作り方が、見事だと思う。

杏がもし、灰色の空の下で飛ぶこともできないカラスであるなら、彼女がブルーインパルスが飛ぶ青空の中で死を選んだことはあまりにもな皮肉だ。でも、どうすれば彼女を救うことができたのか想像もつかない。やはり私たちは知り続けるしかないのだ、と思わされる映画だ。
彼女は私のそばにいる。