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あんのことのせっのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
4.5

幼い頃から売春をし、母親からも虐待され覚醒剤所持で逮捕された杏が、刑事と記者に助けられながら更生を目指すも、コロナ禍で全ての繋がりが絶たれて、杏の未来にまた暗雲が立ち込める話。

いかに自分がある一定水準以上の価値観でしか生きてないことを思い知らされる。杏の行く末を幸せになれるようにと願いながらも、所々「それはダメじゃない?」と横槍を入れたくなる自分に嫌気がさす。特にコロナパート、マスクしてるしてない描写に敏感に目をつけてしまう。

次は会えなくなると嘆く老人ホームのおじいちゃんに対しては、当然マスクちゃんとしてないからすぐ移って高齢者だから死ぬんじゃね?とか思ったり、立入禁止の公園でマスクもせずに遊んでたぶん手洗いとかもそこまでちゃんとしてないから、隼人は恐らくコロナにかかり、そしておばあちゃんに移してしまっているんだろうと邪推する。気にしてる人には気になるように作り手によって嫌味のように仕掛けられている気がした。

杏のように今を生きることに必死な人達へそんなことを横槍入れるなんて無意味なのに。杏と性的な関係を結んでいたかもしれない刑事、私たちの視点から見たら弱い立場を搾取する完全なクソ野郎だけど、売春が日常で優しく向き合ってくれる大人がずっといなかった杏にとっては関係を持つことがそこまで苦ではなかった可能性もある。はやとを突然預けた母親だって無責任すぎるし、あんなことしてケロッとしてる姿に多少イラつきも感じるのに、杏にとってはそんなことはどうだって良い。

こうやって私が映画を見ながら批判し排除しようとする感覚が、杏のような人達を殺していくんだろう。"一般常識"などない世界に私達ごときが口を出せるのだろうか。

確かなのは多くの登場人物が誰かに危害を与えたり影響を及ぼしているのに、杏だけは誰のことも傷つけなかった。唯一傷つけてたのが自分だけだった。
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