ヤマ

あんのことのヤマのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
4.0
幼い頃から過酷な生き方を強いられ、売春や麻薬の常習を重ねてきた杏は、変わり者の刑事・多々羅との出会いをきっかけに更生の道を歩みはじめる。その矢先コロナ禍が訪れ、杏の行く先に影を落とす。

あまりに厳しい境遇や巡り合わせにやりきれない思いがする。それでも周囲の助けのもと、杏が自ら立ち直っていくさまには胸を打たれる。髪を切り、初めて手にした給料で手帳やヨガマットを買い、祖母へみやげを渡す、ひとつひとつの描写に杏という存在のかがやきがある。演じる河合優実は見事というほかない。

時代を占有したコロナ禍は過去になり、東京オリンピックは忘却の彼方に去ろうとする。しかし2020年当時の新聞記事に着想を得た物語は、ほとんど存在を顧みられなかったあんのことを忘れがたい時代の記憶として焼き付ける。
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