イージーライター

あんのことのイージーライターのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
4.0
最近思うことは、最もしんどい人たちはその存在が可視化されにくいということだ。
例えば、主婦を含む女性が家庭内の介護にいまだ従事せざるをえず大変なのは構造化されてよく知られているところである。しかし有職男性が一人で母親なりの介護に従事している現実があるのは、この社会ではなかなか見えてこない。見えてこないから制度なりを作っての手を差し伸べることが難しい。

コロナのとき、とかく社会は休め休めとなった。もちろんそれを広げぬためには必要だったことかもしれないが、もともと家族からも周囲からも断絶しているような人の存在を照らすことを、社会がコミュニケーションを積極的に断絶しようとするときに、そこに私たちは、目を向けることを怠っていた。怠っている以上、私たちはそこに手を差し伸べることに気づくはずもない。

この映画は実は「あん」という青年と少女の間ぐらいの人に、コロナ期に手を差し伸べることができなかったことを描いた話である。私たちが自分たちの身を守ることだけを考えていたとき、そこに漏れてしまっていた、社会の消極的不善の結果を見せられる。

河合優実が演じる、あんは生まれたときから不幸であるが、一度は、佐藤二朗の少年課だろうか警察官の介入で救われる。救われるとまた救う人が現れる。そこで生まれてきて以来人からの優しさに触れていなかっただろう河合が見せる笑顔がとてつもなく美しい。しかし、あんが起因することでない事件とそしてコロナによって彼女は必然の結果としてまた孤独に陥る。そこに湧いたように光が差して、それも彼女としてはどうしようもないことが生じてしまう。

よくもまあこんな救いがない話をと、思わされる。見ていて辛くて辛くて仕方ない。このような鑑賞体験はめったにあることではない。そしてその思いを深めさせるのが、この話は実話をもとに作られていると、冒頭、説明されていることだ。頭で作った話ではないことが、実存したこと、しっかりと受け止めたい。

キノフィルムズ製作。碁盤切りに続いてキノフィルムズ、快進撃である。