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あんのことのhasisiのレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
3.5
2018年の東京。
母子家庭で育った杏(21才)は、薬物依存症の売春婦。
覚せい剤の使用で逮捕されるのだが、そこで運命の人である多々羅保と出会う。
少しずつ回復し、穏やかな生活を手に入れる杏だったが。
2020年のコロナウィルスの流行が迫っていた。

監督・脚本は、入江 悠。
2024年に公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】🗼💉
[恵美子]祖母。
[香川杏]主人公。
[桐野達樹]記者。
[多々羅保]刑事。
[春海]母。
[三隅紗良]シングルマザー。

【概要から感想へ】🚔🧘🏻‍♂️
見たい映画ぜんぶみたわ。もう見たい物ないわ。
(休むか?)
で、IMDbの近年の高評価で見逃したものに目を通してみよう企画。

入江監督は、1979年生まれ。神奈川県出身の男性。
『AI崩壊』や『聖地X』の人。
一部に熱狂的なファンがいる、程度の認識。
さいごまで飽きずに楽しめる貴重な日本人監督ではある。

根明で穏やか。
蒸発に興味惹かれる人は、世間に期待されるほど、ここではないどこかへ行きたがる。

2020年に実際に起きた出来事をモチーフにしています。

😷〈序盤〉🗑️🧦
杏は母に従順で大人しい。すべてを諦めた感じ。ジト目。
オヤジネタを平気で使ってくる辺りに、時代にこびない監督の強さを感じる。

空気が不穏。
貧困でシャブ中の杏に必要なものが、すべて並べられる。
並べられるんだけど、
「この監督、時代の風潮を馬鹿にしてるんだろなぁ」
一個いっこが嘘くさくて、視点がすねている。
酷いことになりそうな予感しかしない。

メンター役で、佐藤二朗が登場。
(『さがす』のお父さん)
この人が、便宜上怒っているけど、実際はまったく怒ってない演技ができるので、気楽に見られる。
アドリブがすごそう。
暗い映画でも、現場がくすくす笑顔になりそうで助かる。
置き換え不可能な役者ってずるいよなぁ。

😷〈中盤〉👨🏻‍🦼🥼
杏が愛されキャラなので、周りの大人がサービス満点。
みんな親身に守ってくれる。
もてる人が貧困をテーマにしているだけであって、誰も悪くないけど、
正直あまり気分のいいものではない。

平和で幸せな時間がすぎてゆく。
苦しんでいる人を助けたい、監督の無垢な感情でつくられているのだろう。

ロックダウンによる楽園の崩壊。
思い出せば、あの時会社がばたばた潰れて、
それをちゃんとドラマにしたものって、見たことなかった。

東日本大震災もそうだけど、『すずめの戸締まり』のように、
映画にできるまで長い時間がかかった。
(あれも辛かったなぁ、泣きすぎて喉痛めたからなぁ)
心が疲弊するものと向かい合うのは危険だから、認知的不協和で、無意識に脳が回避する。
それを世界全体で行うと、なかったかのように過ぎ去ってゆく。

能登半島地震や大雨被害も、それに近いものを感じる。
困難に笑顔で向かい合える人のメンタルって尊敬できるし、危機的状況では助けられる。

😷〈終盤〉👩🏻‍🍼📝
生きがい探し。
男性監督で、女性主人公の違和感がここで。
女性たちに怒られそう。
欲求を満たす、で褒められたものじゃないけど、
性別は関係なく、人によりけりだから、間違ってはいない。

独自勢もあるし、上手く撮れてはいる。
人に育てられないと人には成れない、を体現している人だから。
ネグレクトを描くのと相性がいい。

【映画を振り返って】📔🖊️
貧困層への寄り添い。
苦しんでいる人たちを救済するものを、
風刺しているようにも見えるけど。分からない。
単に馬鹿にしているだけだと、離脱確定だけど。
心惹かれているというか、題材に対して監督のリスペクトがあるから、自然と楽しめる。
嫌な感じはしない。

🎒引っ掛かりが何もない。
社会問題とまっすぐ向かい合っている。
こんなに素直に映画って撮れるものなのか。
コロナの時の日本を振り返るには優れていて、
その点では、文化的な価値が高いだろう。

主演の河合優実が役に没頭している。
画面の向こうに実在の人物が存在しているかのよう。
役に入りすぎて若干ひく。
周りの俳優たちが、彼女の真剣さに引っ張られて演技もリアルに変化してゆく。
コロナで亡くなった人達の顔が浮かんでくる映画。

物語は、社会的地位や道徳の話へと展開してゆくのだが、
善と悪に別れておらず、個性がグラデーションしている。
極端に無垢な主人公と共存しているから、ちょっと鳥肌がたった。
実話と監督の個性が溶け合った功績。
それをただ観客に見せて、考える材料として提供している。

けどわりと、お世話になった先輩が叩かれているのを影から眺め、マスコミやSNSに反論するのが動機のような気もする。
ここだけ妙に迫ってくるものがあった。

事件を取材していった結果、導き出した結論の可能性もあるのか。
そう考えると、映画を製作している過程の監督の分人が、吾郎ちゃん(元SMAPの稲垣吾郎)に。
この人もひょうひょうとしていて、佐藤二朗に通じるものがある。
感情の起伏に乏しい人の方が、入江監督にとっては感情移入しやすいのかも。

📰朝日新聞に掲載された記事がもとになっている。
細かい肉付けがされているが、大まかな流れは記事から受けた印象と同じで、
そこへ記事が出た後に起きた事件が追加されている。
なので、ドキュメンタリーの再現VTR的な側面を持っている。

案の定、3幕の「中年男性の欲求」はオリジナル要素。
ここだけ、前後の物語と合っておらず、存在を消していた監督が姿を現したかのよう。
「親と子」を描く世界中の監督を動かす映画製作の理由であり、
本作の個性にも繋がっている部分なので、前向きにとらえたい。

💧命のバトン。
メンター探しはよくある題材だけど、1作の中で、その先を描いているものは珍しいので刺激を受けた。
周囲の影響をもろに受けるタイプを主人公に据えつつ、
世界には色々な人がいる、と多様性も認識できていて、
宇宙を感じられる作品に仕上がっている。
日本にも優れた人いるなぁ、と思わせてくれた。
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