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SUGARCANE/シュガーケインのhasisiのレビュー・感想・評価

SUGARCANE/シュガーケイン(2024年製作の映画)
3.7
カナダ。かつてキリスト教会の指導のもと、先住民の子供たちを強制的に隔離。英語やフランス語を喋らせ、働かせていた寄宿舎がいくつも運営されていた。
本作は、聖ジョセフ寄宿舎学校の調査に同行し、
サバイバー(生存者)とその子孫の今を伝える。

監督は、ジュリアン・ブレイブ・ノイズキャット。エミリー・キャシー。
2024年に公開されたドキュメンタリー映画です。

【主な登場人物】🍁🥌
[アナ]リックの妻。
[エド]監督の父。
[ウィズリー・ジャクソン]情報提供者。
[ウィリー・セラーズ]WLFN首長。
[ケイアー]監督の祖母。
[ジーン・ウィリアム]生存者。ロング。
[ジャスティン・トルドー]首相。
[シャリーン・ベリュー]調査員・高齢。
[ジュリアン]監督。
[セシリア・ポール]車椅子。
[ホイットニー・スペアリング]調査員。
[マルティナ・ピエール]エドのおば。
[ラリー・エミール]髭。
[リック・ギルバート]元WLFN首長。
[ルイ・ローゲン]RCM代表。
[レアド・アーチー]乱暴者。
[ロザリム・サム]生存者。ショート。

【概要から感想へ】🐎🤠
ノイズキャット監督は、1993年生まれ。ミネソタ州出身の男性。
先住民の権利、および気候正義の活動家。
本作に登場する黒髪ロン毛のイケメンが彼です。
(気候正義の過激派が『HOW TO BLOW UP』に登場する主人公たち)

キャシー監督は、1992年生まれ。カナダ出身の女性。
紛争と人権侵害を取材する専門家。報道の分野で賞を取りまくっている。
ナショナル・マガジン賞の最年少受賞者。

シュガーケインの意味はサトウキビ。
カナダのブリティッシュコロンビア州にある先住民保護区の名称だが、
おそらく性的な意味とのダブルミーニングだと思われ。

本作の視聴に挑戦するのは3回目。
チューニングが合わなくて、途中離脱をくり返すが。
アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたので腹をくくる。

[カナダ・インディアン寄宿舎制度]🏫
1876年に設立。
先住民の子供たちを地元の宗教や文化から隔離し、ヨーロッパの文化に同化させることを目的とした学校。
政府によって資金提供され、キリスト教会によって管理されていた。

大人の再教育は難しいと判断し、子供を自分たちに同化させようとした政策。
先住民の言葉と信仰を禁止。
当時の価値観らしく、支配的な植民地主義に基づいている。
実態は、性的虐待、栄養失調、病気(主に感染症)の温床に。
経営は100年つづき、犠牲者は多く見積もると3万人を越える。
多くの学生がアイデンティティを消失。
社会への適応に苦しみ、薬物の乱用などの問題を抱えている。

2022年に教皇がジェノサイド(集団殺害)だと認め、謝罪している。
現在は学校跡地にある無標の墓を特定する取り組みが行われている。

⛪〈序盤〉🪦🕳️
白人が先住民を相手に「自分たちのように生きるのが幸せ」と価値観の押し付け、を行っていた頃の記録を掘り返している。
アップルTV+の『ファンシー・ダンス』でもちらっと描かれているが。
正しいと思ってやっているから質が悪い。

被害をこうむる。
怪我をした時。心の調子が狂った時。
周りの誰かが治療に付き合ってくれて、同情してくれるだけでも救われるが。
それが、まるで聞こえていないかのように。面倒はごめんだ、とスルーされる。
とくに辛いのは、己の罪悪感から逃れるために、たいした事じゃないとあしらわれ、
あたかも大げさ。お前が悪い、と責任転嫁された時。
これほど無力さや孤独を感じる瞬間もない。

寄宿舎学校の記憶。
被害者が虐待を受けていた当時の現場を訪れて回想する辛い体験。
最下層の刑務所を彷彿させる虐待の日々。
集団墓地の調査がはじまったのが2007年頃で。
「加害者に責任をとらせる」
50年の時を経て動き出した静かな復讐劇。

⛪〈中盤〉🏔️🏞️
遠い過去の出来事のように感じていたけど、寄宿舎学校が閉鎖されたのが1997年。被害者も加害者も存命で、辛い記憶に今も苦しんでいる。
苦しみは寄宿舎で生まれたハーフの子供たちへと引き継がれているので、世代を越えた物語。

子供時代に受けた暴力は、トラウマとして残り、飲酒などの過度な依存へ走らせる。
親の鬱は家族へのダメージに繋がり、孫へと連鎖してゆく。
20世紀の聖職者の衝動が21世紀まで先住民の家系に暗い影を落としている。

⛪〈終盤〉👦🏽👧🏽
スペインにある、聖マリアの無原罪教育宣教修道会の本部を訪問。
アイルランドの血が流れるリック。穏やかな人ではあるが、代表と対話するシーンは、言葉に重みがあって心にくるものがあった。
相手は加害者ではないので、声を荒げて訴えても八つ当たり。
冷静にただ自分たちの事情を言葉にすれば、連帯で責任を感じているので伝わる。

同僚の罪に胸を痛める組織人。
当時の事実確認を行う人。
先祖の遺骨を探す人。
加害者は罪の重さから姿を現さないが、被害者は様々な思いを胸に今も戦い続けている。

【映画を振り返って】🏕️🪶
「街録ch」のようなサバイバーの苦労話。
インタビューは一切なく、主だったイベントや、当人同士の対話を横から撮影している。
取材対象がカメラを意識しているので、多少芝居がかっている。
心情をどれだけ曝け出してくれるかにかかっているので、口で訴えるのが得意な人だと重宝がられる。

広大なアメリカ大陸を舞台に時間がゆっくり流れるので、その分、情報がギュッと詰まっている感覚は得られない。キリスト教の暗部を白日の下に晒した歴史的価値。3世代を通した親子の葛藤に感銘を受けるかどうかで、評価が分かれるだろう。

🪢自由社会の生み出した弊害。
監視の目が届かなければ、権力者はやりたい放題。先住民の幼い子供は奴隷のように扱われ、寄宿舎学校で果かなく消えていった数は4000人を越える。
防犯カメラや、ネットに誹謗中傷が蔓延る現代は居心地が悪いが、性犯罪が跋扈(ばっこ)していた過去よりはましか。
いまは巨大IT企業群(ビックテック)による緩やかな支配下にあるので、派手な動きは少ないが、権力者の横暴が止められない状態は繰り返されている。

✝️先住民に息づくキリスト教。
神に罪はなし、で教義を捨てるまでにはいたっていない。
新興宗教の衰退と対照的。
日曜日のミサ、のような緩やかな習慣が功を奏したのかも。
苦しみをもたらした布教活動が、心の支えとして根を下ろしたなんて皮肉な話ではある。

ジュリアン監督。父親と楽しそうに旅しているけど、一緒に生活するのは23年ぶり。
映画製作の2年間を共に過ごした父と息子の記録でもある。
キャシー監督が寄宿舎跡に墓地の可能性、をニュースで確認してジュリアンに連絡。
過去を話さなかった父親が、どうやら寄宿舎の生き残りらしい、と展開するのだが。
お洒落仕様なので、本編ではその辺の美味しいネタについて一切触れてない。
(昨今のミステリアス重視教の弊害で、日本人誰も観てないんだが)

❤️‍🩹傷みと共に生きる。
寄宿舎の被害者数は、その後の自殺の蔓延を含めると数えきれない。
差別、憎しみ、衝突。多大なストレスを受けながら、それでも前を向いて歩いてゆく。
加害者のことは一生許せないだろうけど。
負った傷を癒しながら命を繋ぐ。
もう二度と同じ過ちが起きないよう、過去の出来事として語り継がれる日まで。
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