毒親である母親に虐待され、売春を強要されていた主人公の杏は覚醒剤を使用した罪で逮捕される。しかし、そこで出会った刑事の多々羅に更生への道筋を作ってもらったことで人生が少しずつ好転しはじめ、新たな人生を歩みつつあったのだが……というストーリー。
重い。そして、救いがない。実話を元にした物語であることが、その重さに拍車をかけている。杏は道こそ踏み外しかけていたが、根は素直で真面目で、善良な女性である。実の娘である杏に売春を強要し、金銭をせしめていた母親の元に生まれながらも優しい人間に育ち、他人に危害を加えることも世界を恨むこともなく、多々羅に提示された道を懸命に努力して進みはじめていた。それだけに、物語の顛末に悲しみや怒りを覚えてしまった。
杏の希望はコロナや様々な出来事の影響によって一つずつ潰されていき、最後にはあのラストが待っていた。せめて一つだけでもすがれる何かが残っていれば、杏はそれを支えに前向きに人生を送れた可能性があったのではないか。そう考えると悲しい。心に残る映画だった。