鷲尾翼

あんのことの鷲尾翼のレビュー・感想・評価

あんのこと(2023年製作の映画)
4.0
【まとめシネマ】#1149

【まとめ】
* 河合優実の希望と絶望の怪演
* 全てが崩壊する地獄の後半戦
* 杏が救われる未来とは

本作の主人公は、河合優実演じる21歳の女性・杏。
幼い頃から母親から暴力を振るわれ、10代半ばから売春や薬物に頼る過酷な人生を送っていた。ある日、取り調べを受けた彼女の前に佐藤二郎演じる風変わりな刑事・多々羅と出会う。他にも稲垣吾郎演じる週刊記者の桐野などの周囲の人物からの献身的なサポートで、杏は更生に向かう。一方で、杏を襲う絶望的な展開が何度もやってくる。その激しすぎる気持ちの緩急を見事に演じる彼女の怪演は、凄味を思う。

中盤からある出来事をきっかけに全てが崩れ落ちる。
杏がやっとの思いで手に入れた就職先や学びの場、人との繋がりが次々と失う地獄。薬物に縋っていたあの頃に戻ってしまう地獄。しかし、地獄の後半戦の中にも僅かな救いが訪れるが、地獄と化した世界では杏を許さず、徹底的に追い詰める。

本作を見て、杏が救われる未来について考えてしまう。
前半で杏が出会った人たちや場所のおかげで更生の道を歩むことが出来たが、それは人や場所がひとつでも失ってはいけないもので、その人たちは簡単に失ってしまうものだったと思う。一見、平和に思う日々でも、自分ではコントロール出来ない出来事の数々で、簡単に地獄になってしまう。

杏の人生を不運や不幸と思わず、今日を生きようと思います。
鷲尾翼

鷲尾翼