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ビーキーパーのLCのレビュー・感想・評価

ビーキーパー(2024年製作の映画)
3.5
面白かった。

耐性なし人としては、厳しい場面の満遍なさにより、最後まで警戒を解けないのでちょっと疲れる。
見やすく工夫されている場面も多いけれど、目の焦点が合いやすい場所に、目の焦点を合わせやすい表現を重ねて、ハッキリと映される断面とか、あったりするので、ある程度の回避術があると、多少安心かもしれない。

題名では「 The Beekeeper (蜂を管理し、群れを保つ人)」と表現されている主人公が、作中で「蜂としての役割を遂行する者」のように描かれていくのが、興味深く、楽しい。
試しに「蜂」そのものとして見ると、物語の中では「女王蜂」と「働き蜂」が主に描かれていたように思う。
面白いのは、女王蜂も働き蜂も、蜂の世界ではどちらも全てメスであること。
実際、蜂として動く主人公が持つ人間関係(かつての所属組織の者とか、お世話になった人とか、とかとか)は、みんな女性だったような印象がある。
じゃあ蜂のオスって何してん、というと、女王蜂が子孫を残す為に必要とされる、というか、「それ以外の役割を持たない存在」として見做されており、交尾後(役目を終えた時)は死ぬし、秋とか冬とかの餌が少ない時期には、少ない餌を重要な蜂に集中させる為に、群れを追い出されたりする。
主人公は、今はどこにも属していない1匹狼(蜂)として行動していたけれど、この辺りを意識していたりするのかもしれない。
彼が感謝の気持ちを隠そうともしなかったのは、群れを離れ、ひとり飛び行く自分を、新たな女王蜂が拾ってくれた、的な視点から来ていたのかな。

蜂のオスは、女王蜂や働き蜂に比べると「生存に関わる機能を持っていない」と言えるのだけれど、しかし、作中でも「お前は人間やろがいな」と言われるし「せやで」と本人も返事をするように、主人公は生存に必要な術を、十分以上に持っている。
それは、蜂として動くように思える一方で、「蜂を管理し、群れを保つ人」としての強さであったようにも思う。
主人公にとっては、自分以外の者が蜂なので、調整が必要と考えた時、容赦なく原因となる「不適切な存在」を排除していくんだね。美味しい蜂蜜を作る群れの機能を乱すのは、お前か。よし、動くなよ、ちょちょいと縛るからな。
彼が最後に見せてくれた選択も、「蜂」ではなくて「人」としてのものだった。

主人公は、ひとり飛んでいた時に拾ってくれた女王蜂を失ったわけだけれど、その子孫を次の女王蜂と見定めたのかもしれないし、最後に映される1匹の飛び行く蜂のように、彼もまたひとり、これからどこかへ飛び行くのかもしれない。まずは冷たい水の中をぶくぶくと。

それにしても、「高齢者は、親のように守ってくれる人がいないから、ひとりで対処するしかない」と主人公が説明してくれるけれども、主人公自身もそういう状況にいるし、彼に狙われた者もそういう状況になっていく様子は、これも上手だなあと感じる。
守ることがあんたの役目やんか。そう言われても、なんともだよなあ。尽力はするけれども。
いよいよ何者にも守られない立場を理解した時、ひとりは銃口を自らへ。ひとりは他者へ。ひとりは、そもそも銃なくてええ、己の手で生き延びていく。そういう違いが、とても綺麗に描かれていた。
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