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Brother ブラザー 富都(プドゥ)のふたり/アバンとアディのsnowwhiteのレビュー・感想・評価

4.2
マレーシアと台湾の合作。試写会にて鑑賞。試写会後のトークショーの内容も最後に書いてます。


不法入国した移民の2世の悲惨な現状をリアルに描き出した映画でした。

不法入国者は子供が生まれても出生届を出すことが出来ない。出生証明書が無いと身分証(ID)が作れない。身分証(ID)がないと正規雇用のまともな職につけない…。負の連鎖が何処までも続く…。

そういう境遇に生まれただけでも大変なのに、主役の2人は更に過酷な境遇だ。

子供の頃両親が火事で亡くなって一人ぼっちなアバン。親とはぐれて(捨てられた?)一人ぼっちなアディ。そんな2人が出会ってアバンはアディを養って兄弟として寄り添いながら必死で生きてきたが思わぬ事件が起きて崩壊していく…。

主役のアバンは聾唖者で耳も聞こえず話すこともできないのですがアバン演じる台湾俳優ウー・カンレンのラスト付近の長い独白シーンが圧巻でした。台詞を喋べらず表情や動作だけであの長い台詞を表現しきったあの演技は凄いです!障がい者の映画は沢山見てきましたがあんな凄い演技見たことないです。あの演技は一見の価値あります。



【ネタバレあります】

舞台はマレーシアの富都(ブドゥ)。主人公のアバンとアディは国籍を持たない不法移民2世の兄弟。

2人に血の繋がりはない。2人は不法移民の子供としてマレーシアで生まれたが出生届が出せず出生証明書も身分証もない。

アバンの両親は幼い頃火事で亡くなり一人で生きてきた。一方アディは父親はどこかで生きているものの幼い頃はぐれてしまい(捨てられた?)、出会ったアバンに育てて貰った。

アバンはマレーシア語で兄を意味し、アディは弟を意味する。

2人は兄弟として寄り添う様に暮らし、名前もない2人はお互いを兄(アバン)、弟(アディ)と呼びあって2人で生きてきた。

マレーシアでは何をするにも身分証を求められる。なので身分証もない2人は正規の仕事にはつけない。

そんな2人を助けてくれるのが隣人のマニーさん。トランスジェンダーで女性として生きているマニーさんも差別を受け貧しいが2人にとてもよくしてくれる。家を世話してくれ仕事も紹介してくれた。

マニーさんは2人の為にたまに料理も作ってくれる。食事のシーンは3人がまるで家族のようで温かいでした。屈託なく冗談言い合って笑う3人が素敵で大好きなシーン。

アバンは聾唖者で補聴器を使っても耳はよくは聞こえないし喋れない。手話のできるアディやマニーさんとは喋れるがそれ以外の人とは疎通が出来ない。

マニーさんの紹介で鶏をさばく仕事をし近くの市場に鶏を納めて日銭を稼いでいるが、聾唖者であることと身分証が無いことで足元を見られ鶏を納めても約束の金額を貰えなかったりする。それでもアバンはとても真面目に働き子供の頃から幼いアディの面倒をずっとみてきた。

一方アディは大人になっても真面目に働こうとせずずっとアバンの世話になっている。

アディはアバンのように地道に働く事を嫌い、不法入国の手助けをする犯罪組織に入って金を貯めようとしていた。偽造身分証を手に入れる為だ。

そんなアディにアバンは何度も真面目に働き犯罪組織と手を切るよう諭すが効果はない。

ジアエンは貧しい人を支援する女性。アバンとアディの身分証取得の為に尽力してくれている。身分証を取得するにはまずこの国で生まれた事を証明しないといけないが、出生届を出していないため出生証明書が無いし、しかも親もいないのでこの国で生まれたことを証明するのに困難を極めている。特にアバンは両親が火事で亡くなっているので彼がマレーシアで生まれた事を知る人は一人もいないのだ。アディは母親は亡くなっているものの父親は何処かにいる筈と手を尽くして探してくれている。

アバンには好きな女性がいる。ミャンマー人の女性。彼女もまた両親とこの国に不法滞在している1人だ。奥手な2人は互いに好意を持ちながら打ち明けることも出来ない。

彼女とのデートのシーンが微笑ましい。

この洋服似合う?

(うん。素敵だ)と頷く

ジアエンはその服を試着して側にあったスカーフを巻いてみる。とても似合っていて可愛いが洋服だけを買う。(=スカーフは気に入ったけど買えない)

アバンはこっそりスカーフを買う。

アバンも青いシャツを試着。凄く似合う。
(演じてる俳優さんはイケメンで背も高くスラッとしているので凄く格好いいのだ)

彼女が襟を直してあげたりしてふたりはとってもいい感じ。お似合いの2人だ。


【自宅】
アディがスカーフを見つける。

あー、あのミャンマー人にプレゼントするんだ!告白しちゃえよー!

アディが冷やかして騒ぐ。アバンは照れてアディを黙らせようとしてアデイを追いかける。2人のじゃれあいが可愛らしくて本当の兄弟のよう。

この映画は貧しい2人の過酷な状況を描いてて、特にアバンが働いてる所は大変そう。きつくて苦しい現状を描いたシーンがずっと続くので見ててとても苦しいのだけれど、時々こういう微笑ましいシーンが挟まれててほっとする。

過酷な現状を描きつつも監督の絶妙なさじ加減で重くなりすぎないように作られてて素晴らしいバランスだ。

アバンが買った青いシャツは自分の為に買ったものではなかった。マニーさんがアディの為に紹介してくれた仕事の面接があるのでその為の洋服であった。(アバンは自分のものを1つも買ってなかったんだ。スカーフもシャツも)

しかしアディは面接に行かないと言う。

どうせ足元見られて安い賃金でこき使われるだけだ!搾取されるだけなんだよ!面接なんて行かないっ!

この仕事、実はアバンがしている仕事に比べたら格段に条件がいいのである。

アバンは生きた鶏の首を落とし皮を剥ぎ内蔵を取って綺麗に洗って最後にぶつ切りにする。来る日も来る日も毎日これが続く。血だらけなるし人がしたがらない仕事だ。それに比べてアディに用意された仕事は血だらけにも泥だらけにもならない。冬に冷たい水に手を突っ込むこともない。それなのに、折角マニーが紹介してくれたというのに、アディは面接に行かないという。
アバンが汗水垂らして毎日働いたお金でシャツも買ってくれたというのに。

アバンは自分の為にお金を使うことなく全てアディの為に使っているようなものだ。家賃も食費も電気代も…自分の洋服すら買えずに…。

数日後ミャンマー人の彼女が訪ねてくる。

アバンは彼女にあげようと思っていたスカーフを手にして今日こそ告白しようとドアを開けた。

彼女はこう告げる。

国連が動いてくれて難民申請がやっと通ったの。明日両親と出国する。
あなたと離れたくない。ここに残ってもいい。

彼女はアバンを見つめるが彼は何も言えない。

自分は聾唖者で身分証もない貧しくて過酷な身の上。彼女がやっと難民として法的に認められて堂々と生きられる身分を手に入れたのに引き留めることなんて出来なかったのだ。愛する彼女に幸せになって欲しい。アバンはスカーフを渡せなかった。

ジアエンは黙って頷いて帰っていった。

(何も言えなかったアバンが可哀想で泣ける。ジアエンが素直で本当にいい子で素敵だった。好きだ、行くなって言って貰えなくても恨むこともなく引き下がった彼女。きっと彼女はアバンの事を忘れないだろう)

翌日両親と共に車に乗り込む彼女。(少し名残惜しそうでもあり決断したかのようでもあり…)

遠くから見送るアバン。

(もうホント可愛そうで見ていられなかった。彼に幸せとか希望と呼べるものが人生の中にあったとしたらこの彼女こそが唯一の幸せだったのでは無いだろうか?)


★未だ公開前なので続きは後日記載します



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【試写会後のトークショー】
登壇されたのはこの映画の字幕を付けられた翻訳者さんでした。

マレーシアは多民族国家でマレー人70%、中国からの華僑23%、インド系7%という人口構成。5人に1人が中国系だ。

マレー人はマレー語と英語、華僑は中国語とマレー語と英語、インド人はマレー語、タミル語、英語を話す。

なので、中国語とマレーシア後と英語が混在する難しい翻訳となったそうだ。

(因みに監督はマレーシア人で舞台もマレーシア)

マニーさんを演じる俳優は主役の二人と同じく台湾の俳優さんであった。主役の2人は中国からの不法移民の子供という設定だから台湾俳優が演じてても不思議はないがマニーさんにはそのような設定はなくマレー人でもよかった筈だがそれが台湾人俳優になったのには訳がある。

マレー人は敬虔なイスラム教徒が多いがイスラム教ではLGBTIを認めていない。故にトランスジェンダーのマニーさんがマレー人であれば映倫を通らず上映出来ない可能性が高いので中国から来た人の設定にしたとの監督の弁。(LGBTIを映画で描くことも出来ないって凄いな。日本では考えられないお国事情)

翻訳者が1番好きだったシーンもアバン、アディ、マニーさん3人の食事シーンだった。

(本当にあのシーン良かった。寡黙なアバンが心からゲラゲラ笑ってて楽しそうで。3人の心の繋がりとか温かな雰囲気とかがよく出てた。私も大好きなシーン)

翻訳者の方の話には関係か無いのだが、義理の兄が商社に勤めてて以前マレーシアに赴任した時の事を思い出した。お正月とかに親戚で集まると義兄からマレーシアの話をよく聞いたがマレーシアやシンガポールは華僑が多い(5人に1人が華僑)から英語が共通言語になってて、その英語が中国なまりの英語で凄く聞き取りにくいと。訛りがきつくて最初何を言ってるのか分からなかったとか。ちゃんと伝わらずトラブルになったりもあるんだろうなとか映画を観ながら考えてた。

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