KojiTakeuchi

その鼓動に耳をあてよのKojiTakeuchiのレビュー・感想・評価

その鼓動に耳をあてよ(2023年製作の映画)
4.9
名古屋港の近くで船員のための病院として誕生した名古屋掖済会病院。「断らない救急」を掲げ、戦後の高度成長時も急増する交通事故に対応するなど、地域の救急医療の最後の砦であり続けてきた。
港と工場と国道が交差する下町の病院は、地域柄さまざまな立場の人命に立ち会う。老若男女国籍の違いだけでなく、身寄りのない人、保険に入ってない人、生活に困る人…、断らないのは社会のそんな問題も含めてのこと。
密着した医師はそんな救急医療が「面白い」と言っていた。理由は語られるが、要はそこに社会の縮図があるからなのではないか。厳しい現実はあるが、なんでこんなことしちゃったのってどうしようもなく微笑んでしまう場面もある。
この作品はドキュメンタリーにありがちなただ個人の顔に迫ったり、現場の光景をセンセーショナルに取り上げることをしていない。あくまでも人が現場にいてそこで何を考え葛藤し行動しているかを映し出していた。救急そのものに対してだけでなく医療従事者の働き方や進路、今後の日本の医療にまで及ぶあれこれを提示していた。主要人物はいるが中心ではない、そこにいる全体としての群像が現場にあった。
後半はコロナの影響を受けて対応しきれなくなる場面も映る。遠く小牧市から断られ続けてここまで運んで来たという救急隊員も。コロナから回復した人も映る。大変な状況は変わらないが、コロナのトンネルを一旦抜けたところに救急医療の一区切りの答えを見つけられた気がする。