昭和の香り漂う音楽ライター

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2023/24 ロイヤル・バレエ 「ドン・キホーテ」の昭和の香り漂う音楽ライターのレビュー・感想・評価

4.0
#16
(以下はブログからの一部抜粋です)
今回はキトリがマヤラ・マグリ、バジルがマシュー・ボール。すでにおなじみの顔ぶれである。2人とも軽々と、それでいて力強い踊りを見せてくれる。マグリの32回転フェッテ・アン・トゥールナンには、思わず歓声をおくりたくなる。ボールの“狂言自殺”のシーンなども、なかなかの芸達者ぶりである。

ドン・キホーテを演じたのはイギリスの国民的ダンサーだった、ギャリー・エイヴィス。かつてKバレエでも活躍していた親日派だ。2012年ロンドン五輪閉会式で、火の鳥とともに踊っていた4人の男性ダンサーがいたが、あのなかの一人が、このひとである。昨シーズンのROHシネマ《シンデレラ》では、シンデレラのイジワルな義姉を見事に演じて、捧腹絶倒の名演技を見せてくれた。

アコスタの振付け・演出は、まさに自由奔放で、口頭で合いの手を叫ばせたり、それこそゴルスキーばりに、隅々のコール・ド・バレエ全員に、細かい演技をさせている。幕開け、ドン・キホーテが旅立つ決心をする場面に、早くもドゥルシネア姫が登場する。金持ち貴族ガマーシュにも、きちんと“幸せ”が訪れるのでご安心を。

音楽は先述のように、マーティン・イェーツがかなり手を入れている。ひと昔前の《ドン・キホーテ》の音楽に慣れている方には、驚くような部分があるかもしれないが、アコスタの演出には、これくらいやらないと釣り合わないかもしれない。しかしとにかく、舞台を美しく楽しく見せるために、あらゆるひとたちが結集している様子が如実に伝わってくる(幕間のインタビューや特別映像で、特にそのことがわかる)。

また、今回の映像は、昨年11月7日収録のものだが、この日は、国王チャールズ三世とカミラ王妃が臨席した。戴冠式以来、初めてのROH来場だそうである。到着から着席までを、ちゃんとカメラが追ってくれるが、こういう光景をじっくり見る機会は、そうはない。着席の際は国歌《ゴッド・セイヴ・ザ・キング》が演奏され、客席はスマホ撮影大会になる。

(下記後編からの抜粋です)
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