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ハンテッド 狩られる夜のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ハンテッド 狩られる夜(2023年製作の映画)
3.9
 『ハイテンション』やウェス・クレイヴンの『サランドラ』をリメイクした『ヒルズ・ハブ・アイズ』でお馴染みの、世界一性格の悪いアレクサンドル・アジャが製作総指揮に名前を連ねているということで期待して観に行ったのだが、これが想定を上回る面白さで素晴らしかった。極めてB級映画的で加虐性が強い為、そういうのが苦手な女性は避けた方が良い案件なのだが、いかにも低予算の中に今のアメリカの暗部が凝縮されている。製薬会社フィンザーでSNSマーケティングを担当するアリス(カミーユ・ロウ)は、不倫相手の同僚と情事を重ねた後、黒人のドライバー付きの車で深夜に夫の待つ家へと急いでいた。だが途中、人里離れたガソリンスタンドに立ち寄ってしまったが最後で、従業員の姿がない。ホラー映画の恐怖が始まる予兆には常にガソリンスタンドがあるというのはホラー映画あるあるなのだが(『サランドラ』も然り)、想定より多めの金額をレジ前に置いて、つつがなく外に出たはずの主人公の前に突然、暴力的な発砲が加えられる。

 満ち足りた人生を送っていたはずの主人公にある日、突然殺人鬼のアタックが始まる。店員がいないため、仕方なく店を出ようとした瞬間、突然どこからか銃弾が飛んできて腕を負傷し、スマートフォンも撃ち壊される。どうやら何者かが遠くから彼女を猟銃で狙っているらしいのだが、遥か向こうのビルボード広告には、 GOD IS NOW HERE (神はここにいる)と書かれている。然しながらGOD IS NOW HEREは文節の区切りを変えれば、GOD IS NOWHERE(神は存在しない)にもなり得るのだ。真夜中に訪れたとんでもない鬼畜は単なるサイコパスな殺し屋と見せかけて、実は社会への不満を散々ため込んでいる不満分子であることも徐々に明らかになって行く。トランシーバーに流れる彼の言葉は一見、論理的かつスマートに聞こえるが、冷静に考えれば半ワクチン派のカルト論者であり、熱烈なトランプ支持者でもある。袋小路に陥った主人公に『不思議の国のアリス』のアリスの名前を冠するのはそろそろ止めにして欲しいが、最期にターゲットにされた老夫婦と幼い子供との関係性も大いに考えさせられる。アメリカにおける貧富の差や分断の問題は相当に深刻で、解決策が容易に見えない。その辺りの病理を低予算ホラーの中に上手く盛り込んでいる。
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